白銀の昇り龍
-03
『西島先生、どうかなさいました?』
不審に思う反面、この凍りつくような空気を壊してくれたことに感謝しながら話しかける。
「僕のところは、生徒がなかなか一生懸命にやってくれているので、こっちはどうかなーと来ちゃいました」
来ちゃいましたって……え、ナニソレ。
「大城先生のところはなんか凄いメンバーなので、大丈夫か心配だったんですけれど……意外と彼ら、ちゃんとやるんですね」
そう。こいつら、ブリザード級の空気醸し出している癖に、仕事はきっちりやってるんだよね。
『ええ。ですが、私が担当したこの面は、なかなか落書きが酷くて消しても消してもまだあるんですよね。
先生の担当した面が終わりましたら、手伝いに来ていただけませんか?』
そして俺をこの空気から助けろ。
「わかりました。一度戻って様子を見てきますね」
そう言って西島はいなくなった。
「なんか変」
西島がいなくなった途端、今まで壁の方を向いたまま沈黙を貫いていた宮浦が、振り返って難しそうな顔をして呟いた。
『何が変なんですか?』
俺も変だと思ったことがあるんだが。
たぶん同じところが引っかかっているんだろうな。
「だって、あいつらが西島の言うこと聞いて一生懸命やるっていうのがあり得ない」
そう。たとえば、テツならば、悪ガキたちの扱いも上手いだろうから、そういうこともあり得る。
だが、西島のあの外見と言葉遣いで果たして悪ガキたちは言うことを聞くのだろうか。
でもさ、それなら言わせてもらうけど、この外見と口調の俺の言うこと聞いちゃってるお前らは何なわけ?
気になって聞いてみた。
『君たちだって一生懸命やってるじゃないですか』
人のこと言えないんじゃないですか?
そう言うと、宮浦は目を見開いて硬直した。
「え、相川はどうか知らねぇけど、俺やたいしょーがちゃんとやってるのは、センセと一緒だからだよ?」
何を当たり前のことを!!
と言わんばかりの宮浦。
あー駄目だ。このモードになった宮浦からはロクな台詞が出てこねぇ。
案の定、そこから宮浦がうざくなって来て、気がついたら相川が何かを考えるかのような顔しながらさぼっていて、矢崎は木陰で寝ていた。
……やっぱりブリザードの方が良かったかもしれん。
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