白銀の昇り龍
真夜中の訪問者
うちのクラスのワルたちも帰宅し、テツへの電話を済ませた俺は、1:30前には就寝した。
それなのに。
床について数十分もしない時に、それは聞こえた。
「せ・ん・せー あ・け・て」
自慢ではないが、俺は寝起きが悪い。
そして、起きるべき時間ではない時に起こされると、さらに機嫌が悪いのだ。
貴重な睡眠時間を邪魔した野郎を懲らしめてやろうとドアを開けた途端、俺は見知らない生徒に抱きつかれた。
「もー! 先生ってば開けるの遅いー。
僕との約束、すっかり忘れてたんでしょー!」
プンプン!という効果音が似合いそうな口調と所作で俺に抱きついていたその生徒は、ふと、自分が抱きついた相手に違和感を覚えたらしい。
「あれ?浜中先生、なんか、痩せた?」
恐る恐る……という感じで見上げてきた彼は、俺と目が合うとひどく気まずそうな顔をして視線を逸らす。
「ええーっと……」
『浜中先生は、只今謹慎中です。
そのせいで寮管の順番に狂いが出て、この土日は私が担当になったんですよ。
ところで、こんな時間に寮管室を訪ねてくるとは、どういったご用件が浜中先生にあったのでしょうか。
それと、約束の内容を詳しく教えていただけますか?』
寝起きで機嫌が悪い頭でもなんとか現状を把握できた俺は、辛うじて敬語キャラを守り抜いた。
それに対し、目の前の小柄な少年は狼狽しきっている。
「えっと、浜中先生と1:30に約束をしていまして……」
『どういったご用件で?』
「ええっと……それは…」
『それは?』
「あの、うーん……」
『えーやうーんばかりでは答えになっていませんよ?』
「あ……その…あ、イイコトしようって」
『イイコト?』
「も、勘弁してください」
これぐらいにしておいてやるか。
『わかっているとは思いますが、こんな時間に待ち合わせをするものではありません。
それと、人の恋愛に口出しするつもりはありませんが、相手をもう少し選ぶことをお勧めします』
そう言ってジェスチャーで帰れとやると、その生徒は安心した顔をし……
「先生、見逃してくれるんですね!ありがとうございます!」
『あーもうわかりましたから。早く部屋に帰りなさい』
「お休みなさい!
あ、そうだ。浜中先生はやめるんで、今度、相手してください!」
『……はい?』
「先生すごくカッコイイですよね♪
僕のタイプです!それじゃ!!」
嵐のような少年は走って去っていった。
………なんだ今の。
それと、なんだかまたあり得ない言葉が聞こえなったか?
「カッコイイ」って。
最近の高校生の審美眼はおかしいのでは……と頭を抱えようとして、いつもあるはずの障害物に手が当たらないことに気付き……
『やべぇ……』
思わず呟いた独り言が、寮管室内で妙に響き、自分に返ってくる。
メガネかけ忘れてた。
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