白銀の昇り龍
-02
椅子に座ったまま頭を抱えた俺の頭上で、2人は顔を見合わせている。
「たいしょー、知ってた?」
「いや、初耳だ」
『……ここの門限、21:00なんですけどね』
そう言うと、宮浦が笑いだした。
「そんな、ガキじゃないんだから!」
いや、お前らは十分にガキだよ。未成年って時点で。
一方、俺が膝に乗せていた名簿を覗き込んだ矢崎は、ため息とともに、嬉しくない情報をくれた。
「21:00は早すぎるだろうな。とくにこのメンツには」
そう。まだ帰ってきていない連中の中には、かの相川がいるのだ。
相川と数人を除いた残りは知らない名前だったが、おそらく、今目の前にいる2人や相川たちとそうそう変わらないタイプの生徒なのだろう。
『いつ頃帰ってきますかね……』
「そうだな……あと3時間は覚悟しておいた方がいい」
………もういっそ補導されてこいよ。
俺がブラックな思考に陥り、今提示されたばかりの3時間をどう過ごそうか考えていると、宮浦が人差し指を上に向けながら「いーこと考えた!」と言う。
お前の「いーこと」が字面通りなわきゃない。
そう思いながら胡乱な眼で宮浦を見ると「ちょっと待ってて!」と宮浦はいなくなった。
残された俺はぽかーんとするしかない。同じく残された矢崎は、俺の隣の椅子に座り、居眠りの体勢に入っている。
『いやいや、え、寝るんですか?』
「ああ、ただ待ってるのも癪なんでな。寝る」
えー、何この異様な空間。
っていうか、もし、ここに相川が帰ってきたら一触即発な空気になるんじゃねーの?
そんな心配をしていると、宮浦が戻ってきた。
手には教材らしきもの。
「センセー、俺、次の英語当たるのね。だから教えて?」
こいつは、英語の前に現代文をやるべきではないだろうか。
接続詞が接続できてねぇ。
『私は社会科の教師なのですが……』
「でも先生でしょ?」
『・・・・・・』
今、改めて思う。
教師ってなんて厳しい仕事なんだろうか。
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