白銀の昇り龍
学生……?
保健室から逃げた俺は、とにかく走った。
浜中から逃げ切って職員室に行けばなんとかなる。
そう思って、全力疾走した。
が、それがいけなかった。
廊下の曲がり角で、向こうから来る人の影が見えたときには、止まることはできなくなっていた。
『あぶな……!』
「……っと!」
向こうから来た影は2人だったが、スピードを落としきれなかった俺は、そのうちの片方にぶつかってしまった。
ただラッキーなことに、ぶつかってしまった相手がとっさに手を回してくれたおかげで、無様にも廊下に倒れることはなかった。
……知りもしない野郎に抱きしめられる形になったのは不本意だが。
「大丈夫か?」
『大丈夫……すみません』
すんでのところで自分のキャラを思い出し、とっさに丁寧な詫びを入れる。
すると俺を抱きかかえていない方が、話しかけてきた。
「ってあっれぇ? ひょっとして新任の先生?」
『あ、はい。大城です』
そこまで言って顔を上げ、俺はしばし呆然とした。
俺を抱きかかえているのは銀髪のやたらと背の高い、がっちりした体格の寡黙そうな男。
もう1人は、濃いピンクの長髪を後ろで一つに結んだ、銀髪よりは背も低く細身だが、やはり体格の良い男だった。
なんというか……お前ら、髪を傷めるのが趣味なのか?と聞きたいような色合いだ。
そんな2人は学生服に身を包んでいるものの、まったく学生には見えなかった。
呆然とする俺の目の前で、ピンクの男が手を振る。
「せーんせ?」
『あ……はい』
「先生、今、あっちから来たでしょ?」
あっち、と言って、たった今俺が走ってきた保健室のある廊下を指す。
『ええ』
「保健室の前とか通った? ってか……」
とそこまで言ってから、俺の格好をまじまじと見てくる。
「ひょっとして、今まで保健室にいた?」
『は…い』
すると、ピンク頭は銀髪に向き直り。
「先生を連れていってあげて。俺一人で行ってくるから」
そう言い残すと、さっさと保健室に向かって歩いていってしまった。
その後ろ姿を見送っていたら、急に体が浮いた。
『って、え?』
「あいつの命令だから。連れてく」
『は、はい!?』
俺は銀髪の男に子どもにするように抱き上げられ、そのままその場から連れ去られたのだった。
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