白銀の昇り龍
-02
もう少し探りを入れたいんだが………どっから切り込むかな。
家族の話をしたときに異常に反応してたし、次の手を考えるまではこの話題で繋ぐか。
『10歳だと、かわいい反面大変でしょう? 勉強だって大変になるし、精神面もまだまだ発展しますもんね』
「ええ、まぁ……」
『なのに先生は2学期だか3学期は寮住まいしなくちゃならないんですよね? いつなんですか?』
「3学期……です」
『ああ、じゃあ寮住まい期間は比較的短いんですね』
「はい……」
………なんだか、心ここにあらずって感じなんだが。
そうこうしているうちに、ふと、その教師が音楽室とは違う方向に曲がった。
『あれ? 先生、方向間違ってますよ?』
「いえ、少し用をたしたくなりましてですね……」
ああなんだ、そういうことか。
『あ、それでしたら私はここで待「一緒にい……いかがです?」………はい?』
「ですから……ツレションってことで」
いやいやどこの男子中学生だよ。
おかしいだろうが。
『いや私は「一緒に来てくださいますよね?」……はい』
え、え、人気のない時間に野郎が二人でトイレって……俺、貞操の危機とかねぇよな?
この人既婚者だし。
子どもはかわいい盛りだし。
きちんと家帰れてるはずだから溜まってるとかないだろうし。
……今の俺、こんなナリだし。
いやでもゲテモノ喰いのバイだったらもしくは……まぁ、いざとなれば気絶させればいいか。
そんなとりとめもないことを考えながらもついていく。
バタンッ……
『ちょっ……せ、んせい?』
トイレのドアが閉まった途端、俺の腕をぐいぐい引っ張ってトイレの一番奥まで連れてく教師。
……え、なに?
個室に連れ込まれちゃうカンジ?
そんな馬鹿なことを考えつつも、捕まれていない右拳を陰で軽く握り、いつ攻撃されても返り討ちにできるように準備をしておく。
だが、相手の教師が取った行動は意外なものだった。
トイレの一番奥の壁で、彼は俺の耳にこう囁いたのだ。
「あなたを狙っている生徒がいます。部屋をちょっと覗いたら良い言い訳してすぐに逃げてください」
うわぁ……相川たち、か?
とりあえず、聞いておくべきこと聞いとかないとな。
『先生は、どうして?』
「私は脅されただけです」
脅されただけで、本当は不本意だと。
だからこそ、わざわざこうして俺に教えてくれていると。
……良い人じゃないか。
『ありがとうございます、先生』
「い、良い言い訳思いつきました?」
『まぁ……なんとか』
いや実際は言い訳なんてなんも考えてないけど。
「じゃ、あ……行きましょうか」
そう言って、その先生はドアに向かおうとする。
『待ってよ先生』
「はい?」
俺は、トイレの水を流してから手洗いをした。
『トイレに入ったのに、流水音がしないのはおかしいでしょう? きっと誰か見張ってるはずですから』
演技はしっかりしとかないと、な?
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