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レンタイン


「何味でしょう?」

 にっこりと微笑んだ私の視線の先で、蔵馬もまたにっこりほほ笑んだ。


「いちご?」

「ピンポーン」

「で、いちごは“どんな気分”?」

「蔵馬とキスしたときの“甘い気分”」


 クス、と蔵馬が笑う。目の前には、ラッピングを解かれた箱。中にたくさん並べられた一口サイズのチョコをひとつ、蔵馬は口に運ぶ。


「今度は、ホワイトだ」

「蔵馬と出会ったときの“忘れたくない気分”」

「なるほど。──これはアーモンド」

「蔵馬に対する気持ち。“芯は固い気分”」

「あっ、今度はバナナ」

「……」

「なに?」

「………ベッドで可愛がってもらってるのときの、“幸せな気分”とか…」

「下ネタ」


 バナナねぇ──蔵馬がクスクスと笑う。


「意地悪。考えたのにぃ。いいじゃない、下ネタもあり…!」


 笑われたら恥ずかしくなってきた…。からかってばっかりなんだから。

 よーし…。

 わたしはニヤリと笑い、箱の中をのぞき込む。


「チョコ、少なくなってきたね。全部一気に食べてくれるの?」

「全部食べる」


 蔵馬の細い指が、またひと粒つまみ上げる。


「一個一個の味が違うから楽しいね。それが“気分”を表してるなんてさらに楽しいよ」
 

 そう言って、蔵馬はチョコを口に運ぶ。──途端に、口を手で押さえた。


「苦!」

「あはははっ」


 蔵馬を見て、わたしは笑い声を上げた。いつもからかってばかりの一枚上手な蔵馬に、してやったり!という快感が湧き上がる。


「ひとつだけ、思いっきり苦いの入れたの」

「……効くね。ちなみにこれは?」

「ケンカしたときの“悲しい気分”!」

「悲しい?……明るく言いすぎ」


 プッと小さく吹き出した蔵馬が、突然身を寄せた。

 ん?と思う間もなく、わたしは押し倒される。

 あ、あれれ…。


「蔵、──」


 名前を呼ぼうとした形のままの唇に、蔵馬の唇が重なる。

 そして、隙間の開いた唇をさらにこじ開けるようにして、張り込んでくる蔵馬の舌。わたしの舌に絡みついてくる。


「──っ、にが!?」


 まるで油断していたわたしは目を剥いた。口の中いっぱいに広がるのは、ビターチョコの味。


「にがーい! うわぁ、苦くし過ぎた…ごめんね」


 思わず謝ったわたしの体にのしかかったままで、蔵馬は微笑む。


「俺は少し苦くなくなりました」

「そりゃ、わたしに……」

「キスは、いちご?」

 え、と瞬くと、蔵馬はさらに続ける。


「忘れたくないのはホワイトチョコの味。アーモンドは誓いの味。じゃあ、バナナはなんだっけ?」

「“下ネタ”でしょ?」

「そうでした」

「……これから味わわせてくれるの?」


 わたしは抵抗する気も起きず、笑ってしまう。蔵馬があんまりイタズラっぽく笑っていたから。


「うん。だって苦いチョコを甘くするには、またチョコを食べないとね」

「チョコなら箱の中にあるのに」

「あれじゃ足りない。一番食べたいチョコは、俺の腕の中にあるんだ」

「──、キザだってば」

「なんとでも」




 唇の端についたビターチョコを舐められる。──あとは2人に、チョコレートよりも甘い時間が流れ出す。


 ビターをスイートに変える方法。


 見つけた。






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