「不正解」
「ええ!? 自信あったんだけど…!」
「そりゃそうだ。昨日教えたところだよね」
「……はい」
「わかった、って言ったんだけどな」
「……言った」
「うそ?」
「……イージーミスだもん」
「ほら、ちゃんと先生の顔を見なさい」
蔵馬の指が、コンコンと机を叩く。
「先生って…」
「文句ある?」
そっと顔を上げると、“蔵馬先生”の厳しい目があった。……先生になりきってる。
「再チャレンジ、どうぞ」
「…………」
「なに?」
「昨日だって、後半はまともに勉強会にならなかったって言うか…“あれ”で勉強が身につく方がおかしいって言うか……」
「ぶつぶつ言わない。あれは先生の“お仕置き”です。だからちょっと攻め気味」
「何をサラッと……“ご褒美”にしてよ」
「とんでもない。それじゃあ俺がつまらないじゃないか」
「先生、“サディスト”の意味を教えてください」
「残念、今は英語じゃなくて数学の時間だよ」
「ズルい」
「ほら、もう一度」
わたしは問題集に向かう。
そこには確かに、昨日は解けた数式がある。
うなる。記憶を手繰り寄せて──わたしはハッとした。なんか、思い出せそうな気がしてきた。
ああ、もうかなりそこまで答えが来てる!ほら、出てきそう!
わたしがいそいそとシャープペンを動かし出そうとすると、蔵馬先生の声がした。
「できなきゃまた“お仕置き”ですからね」
カラーン…
転がったのは、わたしの手からこぼれたシャープペン。
「引っ込んだ! 答え引っ込んじゃった! 先生が今めちゃくちゃ邪魔した!」
「心外だな。出来の悪い生徒にハッパかけたんですよ?」
「……先生、やっぱり“サディスト”の意味を教えてください」
「今は数学」
「チェンジして!」
「英語はまだ先です。数学は飽きたの? 仕方ないなぁ」
不意に、蔵馬の瞳がわたしに近づく。
「な…なに!?」
「休憩も兼ねて、保健体育にならチェンジ可」
「お仕置きと何ら変わりないじゃん!」
「気づいた? 頭良くなってきたんじゃない?」
そう言いながら、わたしを抱きすくめる蔵馬先生。──って!
「え、エロ教師〜〜〜!」
室内に響き渡るのは、出来の悪い生徒の絶叫だった。
しかしすべては愛ゆえ。
先生は、甘く甘く微笑んだ。
愛ゆえのスパルタなのだと。
「──んなわけあるか!!」
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