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やってません


昨日の記憶がない。いや、無いわけではないのだが所々消えている。というか二十二時からその後の記憶が綺麗さっぱりと抜けていた。これがアルツハイマーというものか。ってそんなわけはない。記憶が無いせいで今自分がどうしてこんな状況にいるのか分からなかった。分かりたくなかった。なぜ、どうして、隣に彼が、銀時が寝ているのだろう。一体昨日何をしたんだろう。‥まさかのあれ?ヤっちゃった?いやいや待て。ブラもパンツもしっかりちゃっかり着てるからね。でも、まさかのもしかしたらで銀時が着せてくれたっていう可能性も捨てきれない。ああ、昨日のあたしはどうして記憶が飛ぶ程お酒なんか飲んだのだろう。

昨日は何があったっけ。‥ああ、会社でこっぴどく怒られたんだった。それは勿論あたしがいけなかったのだけれど誰かに愚痴らないと体の中のいらいらが抜けなかったのだ。上司が怒るのは部下のためだなんて聞くけれどあれは絶対に嘘だ。責任を免れようと必死なだけに決まってる。それではけ口に腐れ縁の銀時を居酒屋に呼び出したのだ。さんざん上司の悪口を言っていらないこと(例えば未だに彼氏がいないだとか)まで言って飲みに飲んだのだ。そう。そこまではちゃんと記憶がある。だけどそれからの記憶がない。まるで初めからなかったかのようにすっぽりと消えているのだ。困ったものだ。あたしに記憶がないとなるとあとは銀時に頼るしかないのだけれど‥。

「ぎん、と‥」

「すー」

こんなにも気持ち良さそうに寝ているのを起こすのは気が引ける。しかし起きるのを待つとなるとそれまであたしの心臓はもつだろうか。平常心でいられるだろうか。性格はちょっと、というかかなりひねくれているが顔はかっこいい。しかも今はうるさい口を閉じて無防備に寝ているのだ。あたしの、隣で。ここで言っておくがあたしは変態なんかではない。かといって銀時が好きというわけでもない。でもとりあえずはいい男だと認識していることは他言無用だ。まじまじと見つめる。‥おかしいな。なんで銀時は裸なんだろう。いや、裸って言ってもパンツは履いてるけども。ってかパンツのみ着用だけども。もしかして、本当に、あたしは、

「‥し、た?」

「‥してねえ」

のっそりとだるそうに起き上がる銀時。一体いつから起きていたのだろうか。寝起きもいつもと同じ死んだ目をしているものだから今までのは寝ていたのか狸寝入りなのかはわからない。ついでに言うとあの頭は天パなのか寝癖なのかもわからない(たぶん八割方天パだと思うけど)。二日酔いなのだろうか痛ェと言いながら額を押さえる。あの独特の痛みと気分の悪さは耐え難いものがある。ちなみにあたしは何故だかわからないが全くなかった。もしかしたら自分で思っている程飲んでいないのかもしれない。
ふと気付く。あたしは下着姿、だ。今更ながら恥ずかしくなりあたりに散らばった服を羽織る。急に包まれる香り。これは銀時の、である。しかし今脱ぐ気にはなれず仕方なく了承を得て羽織っていることにした。

「‥で、早速ですがどういうわけ?」

「覚えてねェのか‥」

お前が誘ったっていうのによ。耳を疑った。‥あたしは何てことををしたんだ。
昨日べろんべろんに酔ったあたしは一人では帰れそうにはなかった。仕方なく銀時が送ってくれたらしい。その帰り道も大変でいきなり道の真ん中で泣き出したり、赤の他人とハイタッチしたり、喧嘩している人の仲介に入ったりなどと苦労したそうだ。家に着いたはいいものの一人にするのは危なっかしくとりあえず寝るまで待とうとしてくれたらしい。そこからが問題だ。何を思ったか知らないがあたしは急に服を脱ぎ始めた。銀時の制止の声も聞かずに。下着姿になると自分のだけじゃ気が済まないのか銀時のも脱がせたのだから信じられない。しかも好きだよ銀時、などと言いながらというものだから鳥肌がたった。

「やっぱりシたんじゃん‥!」

「いや、ほんとにないから。とりあえず信じてくんない?」

だってな、なまえさ、脱がした後満足そうな顔して俺の上で寝たからよォ。俺も動くに動けなくなったってわけ。ヤってはないから安心しろ。
そう笑ってあたしの頭を撫でる。子供扱いか。言っておくがあたしと銀時は同い年である。はっきりいって下に見られるのは好きではない。やめてったら。可愛くない言葉を呟き元々寝癖でぼさぼさの頭を直す。意味がないことは百も承知だ。しかしながら、こいつは、銀時は男の風上にもおけないな。据え膳食わぬはなんちゃらかんちゃら。あたしから言い寄ったっていうのに何もしないだなんて考えられない。

「‥あんた、男?」

「なまえ相手に無理な話だわ」

はっ、と鼻で笑う銀時に心底腹が立った。その顔に一発ぶち込んでやりたかった。顔の中心に存在する鼻を折ってしまいたかった。しかし、力では勝てるはずもないことは十分に理解している。それがよけいにむかついた。あたしに魅力がないわけがない。このぼん、きゅ、ぼんのナイスバディ(それは言い過ぎかも)。絶対にあたしのせいじゃない。しいて言うなら銀時に原因があるに決まっている。

「へーそういうこと言う?」

「言っちゃう」

「‥覚悟しな」

そう言ってあたしは銀時に深いキスをした。


やってません


これからです



090429
一壱子




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