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HATE!


生まれてから今の今までこの顔を可愛いと思ったことなんて一度たりとも無い。毎日毎日鏡を見て溜め息をつくのだ。整形したいな、なんて思うのはもう日常茶飯事で最近ではついに形成外科まで探してしまった。親にもらったこの体に傷を付けるのは心が痛むがこれから先この顔と過ごすよりはずうっとましだと思える。私の目がもう少し、いや、もっと大きくぱっちり二重だったら。私の鼻がクレオパトラとまではいかないまでももっと高かったら。私の輪郭が人参のように(それは言い過ぎか)もっとシャープだったら。文句を付けたら終わり無いこの顔が私は大嫌い。
でもね、全部が全部嫌いなわけじゃない。たとえば睫が長かったりだとか。たとえば歯並びがよくて白いだとか。良いところもそりゃある。でなきゃ納得いかないよ。ただ嫌いな所がありすぎて良いところが隠れてしまうのはしょうがないことだ。人間平等だなんて一体どこのどいつが言ったんだろう。一発殴ってやらなきゃ。

「‥お金があったらな」

「うちにそんなものありませーん」

「稼げ」

整形とはひどくお金がかかる。保険もおりないそうだ。だから私がどんなにスーパーのレジ打ちバイトを頑張ったとしても満足いくお金が貯まるには相当な時間がかかるのは言うまでもない。銀時の万事屋もときたま仕事がやってくるのは知っているが大したものは無く収入だってたかがしれている。それにお金が入ってもパチンコやら飲みやらで遣われてしまうのだから残るのはほんのわずか(主な理由は糖分摂取だろうな)。というかそんなお金があるのなら何よりもまず溜まった家賃を払わなければならない。そうだ、整形なんて言ってる場合じゃないんだ。この家にはミスブラックホール胃袋が居るんだった。食費だって考えられないくらいいってるはずだ。それに巨大犬だっているから床や壁の修理費だってかかることだろう。なんて、めんどくさい家。思わず溜め息がこぼれてしまった。

「何でそんなにお金欲しいわけ?」

テレビを見ていたその目は私に向けられた。整形したいなあと思って。そう伝えると近づく眉根。おかしなことだろうか。この顔を変えたいと思うことはおかしなことだろうか。女の子なら一度くらい考えることだと思う。男の人だってするんだし変なことではないはずなのに。そもそも銀時は顔立ちがいいから興味など無いだろう。目がちょっとやる気なかったり天性の天パだったりするだけで決してブサ男というわけではないのだから。むしろそこも私にとってはかっこいいとも思える。やっぱり人間不平等だ。私だってもっと可愛く生まれたかった。

「なんで?」

「‥目とか鼻とか嫌」

「いや、違くて」

質問の意味間違えてたのだろうか。もしかしたら脳も整形したほうがいいのかもしれない。でもそれは無理だから我慢して。目の前に銀時のごつごつした手が伸びてくる。あ、この手好き。なんか男らしくてかっこいい。そんなこと口にしたら調子に乗るから言わないけど思うだけなら自由だ。私の鼻を親指と人差し指で摘まれた。まさかそんなことされるだなんて思わないからぶふっ、だなんて言ってしまった。すると銀時は笑うから怒ることなんてできるはずもなく、つられて私も笑ってしまう。

「俺は好きだけどな」

そう言って手を離し目をテレビに戻した。みるみるうちに赤くなっていく顔。やり返したくて私も天パ好きだよって言ってやったら、知ってるだなんて返してきた。くそう。なんかあれだ、悔しい。でもまあ、整形はまだいいかなって思う。銀時が好きと言ってくれるならこの顔に生まれて良かった。


HATE!
HATE!!
HATE!!!



好きと言えたらいいな



090424
一壱子


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