ひっつきむし
小さな炬燵に体を小さくして入れる。冷たい手を足の間に挟んで早く温まるように握った。靴下は必殺二枚履きで何も怖くないさ。ぶるる。犬のように体を震わせ寒さをこらえる。家の中だというのに吐く息は白かった。
子どもは元気な生き物でこのときばかりは羨ましいと思ってしまう。この年になると雪の中を走り回ることなんてできやしない。雪で靴は濡れるし、服に雪が付く。何よりも寒い。炬燵よ早く温まっておくれ。
「あれ?」
「銀ちゃん、コンセント入ってないよ」
「え?まじで?入れて」
「はい座ったー無理ー」
「せめて入れてから座れよ。…せまいんですけど」
じゃあ出れば?こっちの顔を見ずに炬燵の机に顎を乗せながら言い放つ。そもそも俺が先に座っていたというのに何を言い出すのやら。四角形の一辺を二人で使うのはとても狭い。ただでさえ狭いのになまえが入ってくると余計に狭い。それはなまえだってわかってるはずなのにな。けれど俺もなまえもその場所を動こうとはしなかった。
テレビも見ず、蜜柑も食べず、二人並んで座るだけだった。少し寒い背中。炬燵に深く足を突っ込み横になる。するとなまえも同じように横になった。向き合う顔は寒さのせいで少しだけ赤かった。
「寒いでーす」
「入れてよー」
「…肉棒?」
「…ハゲろ」
なまえの鼻を手で触ると冷たかった。ふがっと唸って顔を左右に振り、俺の手を払う。そんな行動に構うことなく今度は赤い頬に触れた。ひんやりとしたなまえの頬と少し温かい俺の手のひら。なまえは抵抗しなかった。俺の手に重ねるように自分の手を持ってきた。鼻よりも頬よりもなまえの手はずっと冷たい。
狭い炬燵の中でなまえの足と俺の足を絡める。少しでも温まったらいいのにな。
「炬燵つけてよ」
「んーそうだな」
「銀ちゃんのが近いよ」
「寒いな」
「聞いてる?」
「聞いてる」
なまえの手に口付ける。ぽっとさらに赤くなる頬。バレないように笑ったつもりが、しっかりと見られていて怒られた。怒りながらも近付いてくるなまえ。俺の胸に額を擦り付けられ、距離はぐんと近くなる。ただでさえ狭いこの炬燵の足に俺は押し付けられた。背中が少し痛んだって構うものか。腕枕を促すと素直になまえは頭を乗せてくる。なんだか小動物みたいで可愛かった。至近距離で見つめ合うとなんだか恥ずかしさがこみ上げてくる。
「手じゃなくて口がいい」
「ん?」
「口がいいなー」
「へーへー」
「…もういい、っ」
口を口で塞ぐと随分と大人しくなる。軽いキスが終わるとお互いに抱きしめ合った。余り身動きがとれないが逆にそれが心地良い。なまえの耳元で寒いな、と呟くと、それに応えてなまえも寒いね、と言う。でもさっき触ったよりも頬も鼻も手も温かくなっていて良かった。
ひっつきむしは抱きしめ合う
寒いんだから温めて
120121
一壱子
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