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落ちる前に


何だろうなこの感じ。今までに味わったことのない不思議な空気だ。意味の分からない音に心の中で何度も耳を疑った。しかしこれは現実であるというのは紛れもない事実で真実なのだ。もう二度とごめんだ。今回だけで十分。こんなことになるなんて誰が思い付くだろう。少なくとも昨日の俺では無理だということは明白だ。その可愛らしい口からは考え付かないような言葉をなまえは吐いた。

「別れる?」

疑問系というのがまたその不思議要素を煽る。何が言いたいのかもわからないし、どうしてその結論に至ったのかもさっぱりだ。付き合う前でもなまえはどこか何かがおかしかったが、付き合っていてもそれは変わらない。いや、それ以上におかしくなった。こんなこと当の本人に言えるわけもない。というかそこも含め好きなのだから別にいいのだ。
しかし、この言葉は範疇外だ。俺の想像を遥かにに越えている。俺に何か悪い所があったり何か嫌な思いをさせたのならまだ分かるが、思い当たる節なんて何もない。ましてなまえに問いてみても俺は何もしていないと言うのだからどうしていいのか分からないのだ。なら原因はなまえにあると思うのが普通ではないだろうか。

「‥何言ってんだ」

「だってね銀ちゃん、よく考えてみてよ」

私たちはこれから先も一緒にいられる保証なんてどこにも無いし、いられる自信も無いの。いつか離れてしまう。それがいつかなんて私には想像つかないし、何故そうなるのかだって分からない。でも何はどうあれそうなることは決まってる。だったら、ねえ。未来の私たちが傷つかないように今の私たちがどうにかしなければならないでしょう?私なりに考えたのが銀ちゃんと別れることだったの。ねえ、おかしい?みんなと一緒になって指を指して笑う?

なまえは俺の隣りで小さく座った。その姿を見ていると思わず抱き締めたくなるがそれでは何の解決にもならない。真っ直ぐ過ぎる彼女は真っ直ぐな答えしか出せない。だからあんな心臓が凍り付くような言葉を吐けるのだ。勿論本心から言っているわけではないというのは分かる。本心ならばあんな辛そうな顔にはならないしそもそも俺に話をしないはずだ。全てが真剣過ぎる。もっと気を抜いていいのに、楽にしていいのに。なまえは一生懸命に俺を好きでいようとしてくれている。別に好きでなくても俺は構わない。ただ、俺はなまえを離す気はさらさらないということは覚えていてもらいたい。

「銀ちゃん、別れる?」

「‥」

「銀ちゃ、」

「好きだ」

手を握る。一瞬震える小さな体を愛しく感じた。そうだ、そうだ。俺がなまえを嫌うようなことは無い。あるはずが無いんだ。だから安心して好きでいてほしい。その小さな体を俺の傍に置いてほしい。勿論、嫌いになったのなら離れていってくれて構わない。心変わりはどうしようもないことだって分かっているさ。それを咎める程子供ではない。ただ、易々と諦めれる程大人ではないということは分かってもらいたい。一生愛すると誓うから、今は傍にいてくれないか。


落ちる前に


私も、と聞こえたのはどうやら幻聴では無いらしい



090421
一壱子




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あきゅろす。
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