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触れる


きゅ。銀時の袖を引っ張った。でも、なんだか恥ずかしい気持ちになって私はすぐにその手を袖から離した。ちょっとの間のことだからたぶん銀時は気付いていない、はず。
何かお祭りでもあるのかというくらいに賑わう駅前の通り。溢れんばかりの人で次から次へと入れ替わる。ちょっとした興味で都心部へ足を伸ばしてみたものの、これでは銀時と話すこともままならない。

「すごい、人」

「なんだって?」

「人が多いね!」

「そうだな」

人にかき消される言葉。そのせいで会話なんか弾むわけがなかった。都会に行ってみたい。ひょんな一言と軽い気持ちでやってきたが、もっと心してかかるべきだった。
隣で黙る銀時を見上げると、いつもの腑抜けた顔で流れる人を見ていた。見ていた、わけではないかもしれない。つまらなそう。どうして私と一緒に来てくれたのだろう。ただの我が儘をどうしてきいてくれたのだろう。振り回しているのに何故何も文句を言わないのだろう。銀時に悪いことをしたなと思う。

「ごめんね」

「何が?」

「せっかく連れてきてくれたのに、その、」

「楽しくないか?」

「ううん!私は銀時が居れば」

銀時を見るとにんまり笑っていた。ちょっと歩くか?そう言って急に歩き出す。迷子にならないように、必死に銀時の後を追いかけた。この人込みの中を歩くのは慣れないと難しいものだ。だから、あれよあれよと言う間に銀時の背中が小さくなる。あの目立つ銀色の頭をどうにか追いかけていたのだが、それさえも人に隠されてしまった。自分の身長と鈍足を呪う。見知らぬ場所で迷子になることほど心細いものはない。止まることは許されなかった。人の流れにのまれていたのだ。きっと、こっちに、銀時はいるはず。根拠のない勘を頼りに私は突き進んだ。突然、腕を掴まれる。

「なまえっ、どこ行くんだよ」

「銀、とき…」

「ちゃんとついて来いよな」

「ごめんね…でも追いつけなくて」

心配しただろー。頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。髪があっちこっちに跳ねていくが、少しも嫌じゃないという不思議。相変わらずの腑抜けた顔だけれど、眉が下がっていたからちょっと嬉しくなった。本当に心配してくれたのだな、と。まあ本心じゃないことを銀時は言わないけれど。
ぎゅ。私の右手と銀時の左手が結ばれた。体が反応して熱くなる。おおお落ち着け!皮膚と皮膚が触れてるだけだ!ただそれだけ!なのに!

「もう迷子になんなよ」

「え、あ、う、うん!」

「…ぷ」

「な、によ!」

「自分から袖掴んだくせに」

「…っ!」

ばれてた。さらに恥ずかしくなってぐーで銀時の肩を殴った。それでも彼は笑っている。私の手を引っ張ってまた歩き出した。手を繋いでいるおかげか置いて行かれることはない。私のペースに合わせて歩いてくれている。会話はなかった。けれど、先程とは違ってとても心地いい。


触れる手


あつい



111103
一壱子


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