酔っ払い
見たことのある車で帰ってきたなまえは酔っぱらっていた。体が熱くて具合が悪そうで、でも顔は白かった。たぶん戻したのだろうと思う。
「…た、たらっまあー」
「何でこんなになるまで飲むんですかコノヤロー」
「そりゃ万事屋が一番わかってんだろうよ」
「…なまえが言ってたのか?」
「いや、察しただけだ」
「土方しあん、ありあとごじゃまーす」
おー、と言って多串君は真撰組の車に乗って帰っていった。よりにもよってなんでなまえは多串君と一緒に帰ってきたのだろうか。なんだかむかむかするが、酔っ払い相手に腹を立てても無意味なことはわかっている。
なまえの腕を俺の首に回し、手を腰に添える。何とか立たせ家に上がらせた。何かに寄りかからないと上手く歩けないようだ。ということはあの車に乗るまでに今の俺と同じようなことをしたのだろう。向かっ腹は立ててはいけないことはわかっているが、どうしてもおさまりそうになかった。
「…銀ちゃ、ごめんなさい」
「何が」
「きょう、怒ったばっかりなのに、また、飲んで潰れて」
「…」
「ごめんなさい」
いいよ、なんて優しい言葉はかけられなかった。でも心配していないわけではない。布団まで運び、座らせる。水を飲ませてから寝かせた。額を撫でてやるとまだ熱かった。しかし顔色は良くなったように見える。
なまえが飲んで潰れるのは俺のせいに違いない。俺とケンカしたり、空気が悪くなったりすると、直ぐに誰かに愚痴るのである。それでなまえがすっきりするのなら良い。いつも自分が悪かった、と謝ってくれるのだ。しかし、なぜ吐くまで飲む必要があるのか。俺にはそれが理解できなかった。
「飲むのはいいんだけどよ」
「うん…」
「吐くまで飲むなって」
「うん…」
「…俺も、悪かったな」
「ううん」
ふわりと笑うなまえはどこか安心したようだった。なまえが酔っているときはとても素直になる。だから、聞いてもいいだろうか。なぜ潰れるまで飲むのか、を。少し躊躇う。もしその意味が俺にとって嫌なことだとしたら、知らないでいたい。例えば、誰かにお持ち帰りされたいだとか。まあなまえに限ってそんなことはないだろうと思うが、絶対という保証はどこにもないのだ。
前髪を触り、額に手を当て、顔の輪郭を辿る。嬉しそうになまえは声を漏らす。吐くまで何で飲むの?そう口に出した。真ん丸の目をしてなまえは俺を見つめた。ふふ、と笑って恥ずかしそうになまえは話し出す。
「心配してほしいの」
「…え?」
「銀ちゃんに心配して貰えたら、愛されてるなあって思えるんだ」
「なんだそれ」
「…もっと心配してよ」
「…変なヤツ」
褒め言葉を言ったわけではないのになまえは笑っていた。だから俺もつられて笑ってしまう。なまえは酔っ払って甘えてるんだろう。こんなに潰れていたら、俺が今何を言おうと明日の朝には忘れてしまう。なら、明日、俺がなまえを安心させる言葉を言ってやろう。そしたらきっとなまえも潰れるまで飲むことはなくなるだろう。
重そうな瞼を一生懸命閉じないようにするなまえ。なんだか可愛くてその瞼に口付けをする。おやすみなまえ、今日も好きだよ。なまえの耳に届いただろうか。
酔っ払いの理由
私のこと好きよね?
111008
一壱子
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