モテ期
「また告白されたってか」
「うん」
「きてんな」
「到来ですよ」
ロックグラスに入った梅酒を飲んだ。アルコールが喉を熱くさせる。目の前に座る銀時も日本酒をちびちびと飲む。頬は赤く少し酔っているようだ。猪口に酒を注ぎながら私に問いかける。まあた断ったのか?その返答に言葉はなく、グラスを口に付けたまま首を縦に振った。かあっと親父くさく息を吐く銀時に眉を寄せた。私が告白の返事をどうしようが関係ないことじゃないか。茄子の漬け物を頬張りながら彼の返事を待つ。銀時は私を哀れむような目で見ていた。私としては、彼にだけはそんな風に見て欲しくない。というか銀時だって同じようなものでしょう。さっちゃんだかなっちゃんだか忘れちゃったけど、彼女に言い寄られてるのに断り続けているのだから。
「勿体無ェなァ」
「何がよ」
「なまえに告白なんてもうねェかもよ」
「それこの前も聞きましたー」
「…モテ期だな」
「ね」
「何で断ったの?」
首を傾げる私。納得のいかない顔で質問をぶつけられた。
給料だって体格だって性格だって良かったんだろ。面食いのなまえでもあの顔はいいほうの部類に入るだろうし。断った意味がわかんねェよ。出汁巻き卵を口に含んで言葉は止まった。頬を膨らましながら話し始めようとする銀時を軽く睨む。それに気付いたのか口を手の甲で抑えてから日本酒で流し込んだ。
徳利の日本酒がなくなったようだ。丁度私のお酒も無くなったので店員を呼んだ。可愛らしい声で応えながら小走りでやってきた。日本酒二つを冷やで。あとお猪口もう一つください。かしこまりました。
銀時に視線を合わせるとありがとう、と言ってきた。にっこり笑って胡瓜の漬け物を口に入れた。
「あんな優良物件断るなんて、さては気になる奴いるだろ?」
「ふふ、まさか」
「嘘はだめだぞなまえ」
「振る優越感をまだ味わいたいだけだし」
「ちょ、おま、さいてー!」
銀時は笑いながら私を指差した。指差すなと注意すると、指をそろえ掌を上にした。その子供っぽさに思わず私も笑ってしまう。そこに店員が酒を持ってきた。笑ってしまっていたため、録にお礼を言うことが出来ず戻ってしまった。お前さいてー。また銀時に指をそろえて差された。アルコールが体を巡っているためか、笑いのつぼが浅くついつい反応してしまう。猪口に注ごうとするときもぷるぷる震え、こぼしてしまう。何かある度にお前さいてーと指を揃えて差される。こんな下らないことではしゃぐ大人二人組。周りから見たら変だとは思うがアルコールが入っているため許してもらいたい。
「モテ期すげェな」
「そうかな?」
「そうだろ」
「銀時は振り向かないのに?」
「ん?なんだって?」
「何でもない」
変な奴だな。そう言って銀時はすっかり冷めた焼き鳥を口に入れた。その姿を目に焼き付けるように私は見つめる。決して気付かれないように。
日本酒が喉を熱くさせる。少し和らいだと思ったがまた体が火照ってきた。次は銀時のそういう話を聞きたいわ。なんて自分で自分を傷つけるようなことを言えちゃうからアルコールは怖いものだ。次だな、次ん時には用意しとくから気長に待っとけ。眉をひくひくさせながら言う銀時は意地を張っているに違いない。そんなの聞きたくもないのに私は笑顔で頷いた。笑顔でいるのはこの関係を崩さないため。私の気持ちを伝えないのはこの関係を壊さないため。彼以外に何を言われようとも私には意味のないことなのである。
非モテ期
あなたには効かない
110801
一壱子
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