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梅雨


髪が跳ねるのが嫌。折角櫛を通して、綺麗にしてきたのにまるで意味がない。暑いのが嫌。汗っかきの私にとって暑さは一生の敵だ。湿気が多いのが嫌。気分が悪くてたまらない。鬱陶しい雨の降るこの季節、傘を持つのが嫌いな私は雨宿り代わりに万事屋をよく利用する。お風呂も無理矢理貸してもらい気分はまあまあ良い。ぐっしょり濡れた服は洗濯機によりぐるぐる回る。ぐおんぐおん。洗い終わって干して乾くまでにどれくらいの時間を要するだろうか。それまでの間、私は彼の服を借りている。

「今日はいつもよりひどいね」

「まあ梅雨だしな。そのうち止むだろ」

「雨じゃなくて髪の話ね」

「お前、天パ馬鹿にしてんだろ」

「あはははー」

「棒読み」

銀ちゃんは私の隣に座っている。少し距離があるのに彼の香りがするのはこの服のせい。なんて心地良いのだろう。一応女なんだから男の家に上がるのは躊躇えよ。そう言って私の頭を撫でる。私がこうやって家に行くのは銀ちゃんだけ、なんて言えやしない。だから唸って会話を止めた。ぐおんぐおん。響く洗濯音。この沈黙さえも心地が良い。銀ちゃんはどうだか知らないけれど、私はいつもそう思っているよ。ちょんと指と指をくっつけてみる。あくまでも自然に、だ。不自然な行動をすれば銀ちゃんに感づかれてしまうかもしれない。変なところだけは冴えてるんだから嫌になっちゃう。あ、それはないわ。

「…じめじめしてんな」

「あ」

「え」

「…なんでもない」

銀ちゃんが頭に両手を持っていってしまったので、指が離れてしまった。つい漏れた声に彼が気付かないわけがない。にやにやこっちを見続ける。その細い目と合わせるのが嫌でそっぽを向いた。それがいけなかった。
彼が近付いて来たと同時に首筋を舐められた。抵抗しようと腕を振るったが銀ちゃんの力強い腕には適わなかった。服よりももっと香る彼の匂い。湿気と汗が混ざっていけない匂いがする。初めは優しく唇が触れて、それから貪るような荒いキス。そうしたら、もう、だめ。抵抗できなくなってしまう。

「なまえから誘ってくるなんてな」

「誘ってなんか…!」

「じゃあ訂正、甘えてくるなんて」

「…っ!」

耳は反則。ひょいと横抱きで持ち上げられると布団に連れて行かれた。ぴろろんぴろろん。ああ、洗濯機が私を呼んでいる!じたばたしてみても銀ちゃんが私を離す気配はない。そんな目で見ないで。ふわりと私は布団に横たわる。彼の香りが増した気がした。何度も何度も口付けをするものだから、私の服なんてどうでもよくなってきてしまった。銀ちゃんの右手は私の左頬を撫でる。徐々に下がっていき、首、鎖骨、肩に来ると彼の服をずらされる。湿気と私の汗で湿った服は少しだけ脱がしづらそうだった。ぎゅうっと銀ちゃんの厚い胸板にしがみつくと、そこもまた少しだけ湿っていた。
梅雨は嫌いだけど、嫌いなことばかりじゃない。例えば、雨を理由に家に遊びに行ったり、お風呂や服を借りたり、一緒に過ごしたり。嫌なわけがない。どれもこれも好きで好きで、たまらない。


梅雨嫌い


雨よ降れ!



110619
一壱子

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あきゅろす。
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