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口下手


甘い物は好き。この世にお菓子を作ってくださった皆様に感謝感謝。俺は甘い物のお陰で今まで生きてこれました。因みにそのせいで糖尿病予備軍でございます。あれだ、世の中そんなに甘くはないってことだ。
甘い言葉は嫌い。何でかって言われると難しいのだが、こう、なんか、むず痒いのである。甘い物とは違うその甘さに俺はまだ慣れない。まあたぶんこの先一生慣れることなんてないとは思うが。
口に入れる甘いのは好き。口から出す甘いのは嫌い。兎に角だめなんだ。それはなまえだって分かってることだろう。

「私のこと嫌い?」

「っは、え?急に何?」

「好き?」

「お、う」

「ちゃんと」

真っ直ぐ澄んだ目で見つめられるときゅんとなる。下の息子が。おいおい、真っ昼間っから勘弁してくれよ。今夜楽しみにしておこうな、と思い鎮める。そう、いつもならそう思う。だけど今日のなまえはなんだか少違った。とても不安げな顔をしているのだ。
質問から察するにどうやら俺がちゃんと気持ちを言葉にしないことが不安なのだろうと思う。けれどそれは付き合う前から分かっていたことだし、今更直せと言われてもそう簡単に直るものでもない。

「私は銀ちゃん好き」

「知ってらー」

「銀ちゃんは?」

「俺も」

「い、ってよっ、」

くしゃん。そんな効果音でも聞こえてきそうに顔を崩して泣いた。なまえの笑ってる顔はすごくいい。けれど泣き顔は俺を途端に困らせる。泣くほど不安がっていたのだろうか。でも俺が言葉にするのは苦手だと言うことは、長い付き合いの中でわかっていたはずだ。いや、そう思っていたのは俺だけなのかもしれない。どうにかして泣きやませなければ。頭を撫でようとしたら振り払われた。ちょっとだけ傷付いたぞおい。

「…怒ってんの?」

「…銀、ちゃんの、ばか」

「なぜ!」

「いいから、好きって言え!」

今度は怒り出した。随分と忙しいなあ。傷付いた俺は当然その言葉に従うはずもなくなまえの手を握り引っ張った。力では俺のほうが強い。だからいくら頑張ったってなまえは俺に抱き締められるしかなかった。伝わる体温が心地いい。小さくて可愛くて笑うなまえがとても愛おしい。それを言葉に出来たらこんなことにならなかったのにな。
最初は抵抗していたものの徐々に落ち着き、最後には俺の服をぎゅうっと握り締め胸に頬をあてていた。頭を撫でる行為は許された。ぽんぽんとするとなまえの笑い声が微かに聞こえた。

「言えねェ」

「…そ」

「だからさ、」

「…」

「…顔あげて」

まだ目が兎のようで、涙もいっぱいだった。頬を包み、指で唇を触る。そしてなまえは目を閉じた。それと同時に俺はキスをする。最初は優しく、だんだん激しく。時たま声を漏らすのがたまらない。あ、ちょ、元気になっちゃった。今押し倒しても大丈夫だろうか。
言葉にするのは苦手だけれど、体で表すのは得意なんだ。それがなまえに伝わればいいな。


口下手だけど


キスすればわかる?



110326
一壱子


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