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友達以上


「じゃあお開きってことで、ごちそうさま」

「就職おめっとさん」

「え、ちょ、え!?」

そう言うと居酒屋から私と銀時は出た。逃げ出したという言葉の方がしっくりくるのは仕方がない。マダオさんもとい長谷川さんの就職を祝ってここに来たのだけれど、別に祝う気なんて全くといっていい程無かった。一人暮らしであるからそこそこお金は持っているけどそれをマダオさんの為に使うなんて考えられない。勘違いしてほしくないのは私は決してケチではないということだ。なんとなくだけれどここで会計をするのは負けた気がする。ほんとになんとなくだけれど。だからよろしくマダオさん。

そんじょそこらの奴らとは違ってお酒には滅法強い。記憶が飛ぶ程飲んだことは無く、今でも少し飲み足りない。でも流石にこれ以上飲んだら私らよりも長谷川さんの財布が心配だからね。そこまで鬼じゃないさ。
理性を保てるくらいに軽く酔い火照った私には夜風がひんやりと気持ちがいい。普通は肌寒いだとか感じるんだろうが今の私にとっては適温だ。

「んじゃ、またね」

私こっちだから。そう銀時に告げるが隣から動こうとせず、むしろ着いてきている。可笑しな目で見つめるとお前出来上がってんの?とでも言いたそうに鼻で笑われた。どうやら帰り道は同じのようだ。そういえば私は銀時の家に行ったことがないからわかるはずもない。宅飲みしようとしたことは何度かあるがそのたびに断られている。その理由は決まって家に野獣が二匹と家政夫がいるらしいからだ。私は全然構わないしむしろ会ってみたい。銀時が手を焼いているであろう人達に。

「あ、私コンビニ寄るからもう帰っていいよ」

「おー」

「じゃね」

手を振り返事するのを聞かずにコンビニの自動ドアをくぐる。眠たそうなバイト定員の前を通り棚を見る。買う物は勿論お酒とつまみ。でもあまりにも早く出るともしかしたら銀時にあってしまうかもしれないのでとことん迷っている振りをする。別に嫌いとか苦手とかそういうわけではないのだけれど、なんだか、もやもやした。長年友人をやっているのだから仲は悪くない。何が気に入らないかというのは一つだけ。

(居候、か)

それさえなければ私と銀時の時間はもっと取れる筈だというのに、どうして居候なんかが。どうして邪魔をするの。どれだけ私が思っているか知りもしないくせに。この関係が壊れるのが嫌で何も言わずにずるずるとここまで来てしまった。今更言うことも出来ずあわよくば私は結婚せず独身でこの関係を続けたい。銀時はこの先どうするのかなんてわからないけれど、その時がくるまで私を隣に置いてほしい。‥なんて口が裂けても言えない。
手に持ったつまみのチーズがぐちゃりと形を変えた。いけない、思わず力を入れてしまった。仕方なくそれを籠の中へ入れお酒を七、八本乱暴に突っ込む。思っていたよりも激しい音を立てたので店員に見られてしまった。しかし今の私はそんなこと考えている余裕など無かった。

「‥ぎ、んとき」

「遅くね?さっさと選んで出てこいよ。銀さん風邪でも引いちゃったらどうすんの?」

帰ったんじゃなかったの、なんて言葉は私の口から音として出ることはなくそれすら出来ない程驚き固まってしまった。どうしてここに。なぜ。混乱と緊張が私の体を駆け巡る。ああ、だめだ、頭が全くついていかない。ついていけない。
銀時はビール三本とプリンを籠の中へ入れて私の財布を持って会計に向かった。その行動に対して私は何も言うことが出来なかった。

有り難う御座いました。元気のない店員の声に送り出され夜の道をまた歩き始める。なぜだか私は無駄に気分が良かった。でもその分緊張もしていた。ちらりと銀時の顔を見る。みんな死んだ目をしているだとか、天パだとか言うけれどそこがいいと言うのは私だけだと信じたい。
左手に違和感がある。それに加えて熱を持った。今わかったことだけれど、私は知らず知らずの内に女であったのだ。送ってくれたり、待っていてくれたり、荷物を持ってくれたり。口には出してくれないけれどそうだったのだ。私は一体誰に嫉妬していたのだろう。馬鹿らしくなった。


友達以上


この熱は離したくない



090420
一壱子




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