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あけおめ


明けましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました。病気や怪我などせず元気にやっているでしょうか。心配でなりません。私は貴方の健康を何よりも思っております。ますますのご活躍をお祈りしております。今年もどうぞよろしくお願い申し上げま

「違げェし!これ違げェし!なんか息子を見守る母親みたいになってるし!違げェエし!ってか息子にもこんな言葉遣いしねェんだよォ!!」

ただ銀ちゃんにふつー‥うに年賀状を出したいだけなのだが、こんなにも私を悩ませるとは思わなかった。侮っていたぜ謹賀新年。じゃないや年賀葉書。こんな少ないスペースに私の銀ちゃんへの愛を注ぎ込めると思っているのか。溢れかえるのが目に見えておるわ!一体私は何度間違えれば気が済むんだろう。何枚葉書があれば足りるんだろう。お金足りるかしら。
銀ちゃん好みの女になろうとして早二年。彼は未だに振り向いてくれる気がしない。銀ちゃんからしてみれば私なんてその辺にいるダンゴムシのような存在なんだろうか。ころんころんと転がっているんだろうか。ころんころんと、ってなんか可愛いかも。そんな存在の私はさらに可愛いかも。今の私なら良い年賀状書ける気がする。

「明けましておめでとうございます。何よりいい天気で心が晴れ晴れするような」

「‥さっきから何してんだ」

「銀ちゃん!何故ここに‥!」

「俺ん家だろが!」

散らばった葉書はどうにかしろな。そう言って彼は私の目の前に座った。あ、炬燵が私たちを隔てる障害となった。後って真っ二つにしてやんぜ。宛先人を前にして葉書を書くとなると少しばかり恥ずかしいと思うのは当然のこと。けれど書かないわけにはいかないのだ。私は彼にだけ、出していないのだ。他の友人や家族には送ったのだが、彼にだけはまだ送っていない。何を書いていいのか分からなかった。言葉が上手く纏まらなかった。手が震えて書けなかった。書けない理由はいくらでも挙げられると思う。けれど、書く理由は一つしかない。彼に送る物は中途半端な物では私の気が済まない。そう、全ては自己満足である。

「ったく、元旦はとっくに過ぎてますけどー」

「知ってるわ!」

「なまえのだけ来てないんですけどー」

「書いてるわ!」

辺り一面に散らばった失敗作の葉書を彼は拾った。そして一つ一つに目を通していく。表情を変えずに読んでいるので少し心配だった。銀ちゃんの気に障るようなことを書いてしまったのではないかと。嫌なことを書いてしまったのではないかと。変なことを、って元々変なことしか書いてないか。一安心して次こそ完璧な年賀状を書くぞ!と意気込んだ。そんな私の姿をちらちらと彼が見ていたことは知らなかった。書き始めはいつもあけましておめでとう。新年の挨拶だから変える気はない。もしやそれがいけないのか。思い切って謹賀新年にしてみようか。恭賀新年でもいいかな。でも私はそんな慎ましい性格ではないので却下します。

「うーん」

「悪りィんだけど」

「なに?」

「葉書はもういいから直接言ってもらえませんか?」

相変わらずの死んだ魚の目は格好良かった。そう思うのは私の目が腐っているからだろうか。例えそうだとしても銀ちゃんを好きなことに変わりはない。だから、少しだけ、恥ずかしかった。珍しくどこにでもいるような女の子のように頬を赤く染めた。それを見られ、彼の口の両端がつり上がるのが分かる。炬燵の机の上に肘を乗せ、掌に顎を乗せて追い討ちを掛けられた。なんて言うんですっけ。聞かなくても分かってる。だからむかついた。でも口答えすることはできない。それは私が彼に伝えたかった言葉なのだから。震える唇を動かしうっすらと口を開く。銀ちゃんと一緒に居るのは嬉しいけれど今の私は恥ずかしさが勝っている。だから、完結に言った。というよりも吐き捨てたと言ったほうが正しい。逃げるが勝ち、とでもいうかのように私はその場から立ち去った。背後からは銀ちゃんの笑い声が聞こえた気がする。


あけおめ


100107
一壱子



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