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私はあのくるくる天パのマダオに片思い中です。どうにかこうにか彼に好かれたくて、万事屋に行くときは必ずといっていいほど何か食べ物を持っていく。基本的にお菓子が中心。ただ彼は糖尿病予備軍であるから、本当なら糖分は控えたほうがいいのだ。けれど私が持っていってしまう。良くないことをしているというのは分かっている。しかし、こうでもしないと彼はきっと私に興味を持ってくれないのだ。物で釣ろう、だなんて馬鹿な考えだと笑われるかもしれない。だけど、私は、そんな馬鹿な考えにすがりついてまでも彼を振り向かせたいと思っている。言いたいことはただ一つ。恋する乙女は盲目なのだ。

「また大量に持ってきたなァ」

「まあ銀ちゃんよりもお金持ちだからねー」

「じゃあ今度はお菓子じゃなくて現金めぐんでください」

「‥切実ー」

両手にぶら下がったお菓子の袋に銀ちゃんは食い付いた。ああ、良かった。まだ私に関心があるのだと安心する。もしもこのお菓子について何も言われなくなったら、あるいはいらないと言われたら、私の存在価値がなくなってしまうような気がする。それほどまでに私とお菓子はセットで万事屋にやってきていた。
食べていい?そう私に聞くので思いっきり首を上下に振り頷いた。痛いと感じたことは内緒だ。銀ちゃんがチョコのお菓子の袋を開けた途端、その匂いを嗅ぎつけてか神楽ちゃんが奇声を発しつつ現れた。そのお菓子は私の物、とでも言いたそうな目をこちらに向けながら。

「 を く ゎ す ぃ ー ! 」

「やっほー神楽ちゃん」

「うお!ちょま、これは俺のだっつの!」

「寄越すネ!!」

銀ちゃんの背後から襲ってきた神楽ちゃんの目当ては言うまでもなくお菓子。あの怪力少女は銀ちゃんにヘッドロックを掛ける。少しだけ彼は苦しそうだった。
取り合いになる必要性はないと思う。何故なら嫌っていうほど大量に買ってきていたからだ。何故彼はお菓子を渡すことを拒むのか。私にはよく分からなかった。銀ちゃんはそこまでケチじゃなかったはず。では何か理由があるのだろうか。‥考えてみたが分からない。もしかしたら私の考え過ぎなのかもしれない。そうだ。そうに決まっている。
銀ちゃんが持ってるものとは違うお菓子を神楽ちゃんに差し出した。

「神楽ちゃーん、酢昆布」

「なまえ!ありがとネ」

「‥っ!おい、神楽!」

銀ちゃんの静止の声を無視し、すたこらさっさとその場を立ち去った。はあ、と溜め息を吐く銀ちゃんとそれに気付いた私がそこに残った。どうして銀ちゃん溜め息を吐くのだろうか。お菓子をあげてはいけなかったのだろうか。私は動揺を隠せなかった。彼にだけは嫌われたくなかったから。ごめんなさい。訳も分からず謝る。とりあえず謝ればいいだなんて思ってはいない。謝ることしか思いつかないから謝るのだ。いやいや、なんで謝るの。そう言って笑ってくれる銀ちゃんだけどその眉尻は下がっていた。胸が痛くなる。

「ただあげたくなかっただけなんだって」

「‥何で?」

「何でって‥なァ」

また、笑った。でもそれはいつものような笑い方ではなくて、何か恥ずかしそうな、楽しそうな笑み。それが何に対してなのかは全く分からない。ただ彼から嫌われてないようなので安心した。やるよ。右手で渡されたのは黄色い飴玉。たぶん檸檬味だと思う。私が銀ちゃんに買ってきたのだから元々は私のものだけどね。ありがとう。感謝の言葉を述べ手を伸ばす。銀ちゃんから貰ったプレゼント。これを食べることは私にできるのだろうか。飴玉とにらめっこしている私に銀ちゃんは少しだけ真剣に言った。

「お前だけが来ればいいんじゃね?」

照れているのか銀ちゃんは私に顔を見せようとはしなかった。それを見て私も心なしか顔に血液が集まる感じがした。彼は私の気持ちを知っているのだろうか。きっと、うん、確信犯だ。私はここにいてもいいんだ。お菓子のついでなんかじゃない。私を求めたことが何より嬉しかった。
今度、ここに来たときにはいつものように大量のお菓子と、彼に愛の言葉を捧げよう。その時までこの飴玉は食べない。私はそっとポケットに飴と誓いをしまった。


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私がメイン



091209
一壱子



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