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空に咲く花


どーん。ひゅー‥どーん。耳にはいるのは大きすぎる破裂音。人混みが苦手な私は好き好んでそれを見に行こうとはしない。銀ちゃんの家の屋根に座らせてもらいそれを眺めている。これなら息苦しい人混みも避けられ、美しく咲く花火も見れ一石二鳥だ。元気な少年たちはそれを近くで見るべく会場へと足を運んでいた。つまりこの屋根に乗っているのは私と銀ちゃんだけということになる。大人二人ということでついついお酒を呑んでしまうのは仕方がないことだ。花火が見れるという理由もそうだが、何より今日は美しい満月だ。ついつい見とれてしまうほどの黄色の光。満天の星とはいかないけれど、雲は殆ど見当たらない夜空。いい月見酒が出来そうである。

「んー冷酒はいいね」

「なまえ、あんま飲むと転げ落ちっぞ」

「そのときは助けてくれるんでしょ?」

「いや、逆に蹴落とすわ」

「うーわ、ひど」

夜空に光る菊の花。美しいその光景に見とれる。ついつい口が半開きになっていた。しまった、と思い慌てて閉める。私も一応は恥じらいという感情があるので、銀ちゃんに見られてはいないか目だけを動かす。目があった。銀ちゃんの口端は上がりにやけていた。ああ、これは見られていたと確信する。元々お酒が入っているせいで赤くなっているから、この恥ずかしさはきっと伝わらないだろうな。

「だらしなーい」

「うっさい。しょうがないじゃない」

「あ、涎たらしてる」

「え、嘘!」

ごしごし服の袖で拭く。口を開け、仕舞には涎をたらしているだなんて銀ちゃんに言われたように本当にだらしない。しかもそれを一番見て欲しくない人に見られるだなんて‥。うそーん。横から間抜けな声が聞こえる。どうやら嘘を吐かれたらしい。沸々と現れる感情。憎たらしいこの彼は私を小馬鹿にして楽しんでいるのだろうか。この天パ!と叫んで叩いてやろうかと屋根に立つ。その瞬間揺れる視界。傾く体。先程まで座って、しかも酒を呑んでいた私は急に立ったおかげで目眩がした。平らな地面ならば良かったけれど、あいにくここは屋根の上。バランスなどとりづらいに決まっている。しかも、何度も言うが私は呑んでいたのだ。

「う、あ!」

「ちょ、なまえ!」

転げ落ちると思った。ついさっき銀ちゃんと話していたように地面に叩きつけられるのだとそう思っていた。来るであろう衝撃に恐怖を感じ思い切り目を瞑り待ち構えた。聞こえた鈍く激しい音。しかし、待っても来ない。恐怖が痛覚を麻痺させたのだろうか。怖くて閉じていた目をほっそり開ける。写るのは温かい肌色。抱き締められているのだと理解した。

「痛ェ」

「‥ぎ、ちゃん」

「重ェ」

「死ね」

「ふぐっ!!」

銀ちゃんのお腹めがけて握り拳を落とした。助けてもらったことには感謝しているが、いらないものを付け加えるのがいけない。すぐさま腕の中から退き落ち着かせる。どきどき。ああ、心臓が煩い。あんなに近くにいたからもしかしたら聞こえていたかもしれない。むしろ聞かせてあげたかった。そうしたら少しは私の気持ちに気付いてくれるかもしれない。
ありがとう。ぼそりと呟いた言葉は花火の音に消されてしまったかもしれない。けれど、銀ちゃんの口が笑っていたから聞こえたのだと思う。空を見上げると大きな破裂音と白い煙と大輪の花。私はそんな夏の風物詩よりも隣りに座る彼を気にしていたことはきっと誰も知らない。


空に咲く花と丸い月



090908
一壱子



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あきゅろす。
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