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海と狼


じりじりと照りつける太陽。クーラーが設置されてない万事屋は灼熱地獄だ。窓は常に開いているのだが残念なことに風は起きない。湿った空気と高い気温のおかげで私の体温は上昇したまま下がることを知らない。この暑さから逃れるためにお登勢さんの所に行っていたのだが、邪魔だと言われ追い出されてしまった。ちなみにそこは無論天国である。冷房機万歳。
さて、涼しくなるにはどうすればよいか。コンビニをはしごしようか。‥それは流石に恥ずかしい。いい年した女がコンビニ歩きだなんてふざけるのも大概にしろ、という目で見られるに違いない。うん、止めよう。他に何かないかと考えを巡らすが思い付かなかった。やはりここは彼に頼るしかない。

「‥海は?」

「行こうよ行こうよ!」

「‥俺と?」

「当然!勿論神楽ちゃんと新八くんも誘って泳ごーう!」

「よし、却下だ」

へ、と可笑しな声が出てしまった。彼が提案してくれたのにどうして却下するのだろう。いいじゃないか、海。この肌が日焼けするのは些か気に入らないが、それでも楽しいことに間違いないだろう。面倒だと言ってしまえば何も返せないが、彼がそんなことを言うはずがない(ふざけて言うかもしれないけれど)。せっかくの提案だというのに嫌がるその理由は一体何だというのだろうか。ついつい眉尻が垂れ下がり口が真一文字になってしまう。ああ、いけない。彼の顔は私とは違い眉根が近付き口がへの字になってしまった。意味もなく彼はそんな顔をするわけがない。きっと私の言動に問題があったのだろうと思うが、何がいけなかったのかさっぱり分からないのだ。

「なんでよ」

「なんでも」

「どうしてよ」

「どうしても」

まるで九官鳥のように言葉を繰り返す(そっくりそのままではないけれど)。だから何が言いたいのか分かるはずがなかった。分かるわけがなかった。では、言いたくないその理由とはなんだろうか。彼に聞いてみると、男の嫉妬は醜いからな、と呟いた。はっきり言って何故そう答えが返ってきたのかは分からない。けれど、私は彼の嫉妬が醜いなどと思ったことは一度たりともない。むしろもっとしてほしくらいで、しかも私のほうがよく嫉妬してしまうのだ。面倒なんだろうと分かっているものの治ることはない。それは仕方のない物なのだから。

「嫉妬大歓迎。言ってみて」

「‥」

「銀ちゃん」

「‥ん、まあ、あれだ」

ぐいっ、と服の襟を掴まれ引っ張られたかと思うと、そのまま彼の唇へ私のそれが近付いた。急なものに臨機応変に出来ず目を何度も瞬きさせてしまった。嫌なわけでもないので彼のしたいようにさせるべく、身を委ねゆったりとする。すると、調子に乗ったのか押し倒されてしまった。これはまずい。彼の肩に手を掛け力を込めるがびくともせず視界の天井が変わることはない。

「え、ま、銀ちゃ」

「二人ならまだしもガキの面倒は見れねェな」

「じゃあ、二人でも」

「却下」

「な」

「‥俺みたいなのがわんさかいるんだからな」

また唇が触れ合う。今度は先程よりも深く、熱く。両腕は彼の腕に捉えられ私に抵抗する術は残されてはいなかった。しかしなすがままになるのは私のプライドが許さない。出来る限りの力を振り絞り足をばたつかせる。するとうまい具合に彼の急所に私の膝小僧がぶつかった。この世の物とは思えないうめき声を発し私の腕は自由を取り戻す。彼を私の体の上から退かし軽く頭を叩いてやった(意外と力が入っていたかも)。
これじゃあ海どころかこの家も危険ではないか。


海と狼


男ってそういう生き物



090822
一壱子



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あきゅろす。
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