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あつい


日本の夏はなんて蒸し暑いのだろう。まあ、日本にしかいたことがないから比べようがないのだけれど。この湿気さえなければもう少し過ごしやすいけれど、どうにもならないのだから仕方がない。
私は汗っかきだから服にすぐ水の跡が出てしまう。運動したわけではないのにたくさんの染みができ恥ずかしいことこの上ない。夏に涼しそうに見える人は憧れだ。羨ましい。私は見るからに暑苦しいのだから。
麦茶の氷は溶け形は丸くなり、温度差のせいでコップの周りに結露している。飲むときにぽたぽたと滴る雫が足に当たり気持ちがいい。夏は暑いし日焼けするしでインドア派になってしまう私はなにもする気になれない。海はお肌の敵であることは言うまでもないだろう。

「‥ねえ」

「ん?」

「暑いんだけど」

「夏だからね」

「それをわざわざひどくする必要はないんじゃないの?」

私のすぐ傍に寄り添い暑さを倍増させる銀時。はっきり言って邪魔。こっちは冷たさを求めているというのにこうも引っ付いてこられてはたまらない。くっ付いているおかげで密着した腕は妙に湿っぽくなり気持ちが悪い。銀時も同じような状況にあるというのに嫌という気分にはならないのだろうか。
暑い、と目線で何度も訴えているのに銀時は見て見ぬ振りをする。暑くないはずはないのに。冷房機でも点けたいけれど、あいにくこの家には存在しない。唯一ある扇風機は昨日神楽ちゃんの寝相により破壊されていた。この時代になっても団扇を使わなければならないなんてお金がないにも程がある。

「無理ー離れてー」

「無理ー」

「あっついんだもん」

「んー‥ってか」

ほら、やっぱり暑いんじゃない。銀時の額はうっすらと汗をかいていた。それを左手で拭ってあげる。きっと私も同じように汗をかいてるだろうな。いや、たぶん私のほうが酷いだろうな。
暑いこの家にいるよりマンガ喫茶とかカラオケとかいって涼んだほうがいいのではないか。なにも暑いところにいなくてはいけない理由はない。

「俺はさ」

「外行こうよ」

「‥」

「どっか行って涼もうよー」

「‥もっとあつくなりたいんですけど」

「え?」

意味の分からない発言に私の頭はついていけなかった。だって暑いのに暑くなりたいだなんて分かるわけがない。ぽかんとした顔で銀時を見つめていると突然キスをされた。始めは小鳥のようなものだったのに、だんだん深くなっていく。そこで私は銀時の言った意味が分かったのだがもう遅い。完全にスイッチが入ってしまったようだ。ソファーに倒されると服の上から胸を触られる。その間キスの雨が止むことはない。

「ふ、‥ちょ、ぎん、と」

「あちー」

「じゃあやめてよ」

「やめない」

どきん。ああ、だめ。今でも汗かいてるのに、これ以上かくつもりなのだろうか。嫌なのに、嫌なのに。なんでわざわざ自分から暑く、熱くなりたいのか全然分からない。でも銀時と一緒ならまあそれもいいかな、だなんて思ってしまう。たぶん私の頭も銀時の頭もこのあつさにやられたんだ。


あつい


きっと夏のせい



090729
一壱子



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