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もそもそ。どうやら頭を触られているらしい。そのせいで起きてしまったではないか。昼寝くらいゆっくりさせて欲しいものだ。まあ基本的には何もすることはなくいつも暇であることは言うまでもない。一体誰が俺の頭を、髪を触っているのだろうか。起きたばかりの重たい目をこじ開けて視線を上に向ける。映る視界は天井のみ。どうやらその誰かさんは寝っ転がっているらしい。仕方なく頭を動かして確認した。そいつは勿論俺のよく知っている人物で世間的にいえば彼女にあたる。にこにこと効果音がつきそうな笑顔でいるものだからお前のせいで起きたんだ、なんて怒ることはできやしない。何がそんなに楽しいか分かるはずもなくされるがままでいた。

「ふふ」

「‥なまえ、何食べたんだよ」

急に笑い声を漏らすなまえははっきり言って不気味である。しかしその顔が可愛いから許そう。うん、そうしよう。
自分で自分の髪を触ってみた。何が楽しいか分かるかもしれないと思ったが、無論分かるわけがない。自分で言うのも何だが天パのこれを触っても何もいい気はしない。ただ触られているだけにも飽きたのでなまえの髪を触ってみる。俺のとは比べ物にならないほど柔らかく滑らかであった。女の髪というのはどれもこれもこんななのであろうか。時折香る匂いはヘアコロンで間違いないだろう。俺の好きな香りでなんだかそそられる。髪を触るなまえの手をひっぱって俺の傍にこさせた。ぎゅうっと抱き締めてみたが触る手は動きを止めることを知らない。もそもそ。一体なんだというのだろう。どうして今日は髪ばかりを触るのだろうか。

「ふふ」

「触りすぎだからね」

「銀ちゃんの髪好きなんだもん」

ふわふわ、綿飴みたいだよね。優しく笑うその表情から本当にそうなのだということが分かる。この良く言えば癖っ毛の髪のどこがいいのだろうか。ふわふわと言ってもやはり男の髪でなので限度がある。こんな自分の物よりもなまえの髪のほうが触り心地はいいに決まっているのに何が気に入ったのだろう。さっぱり分からない。まあ他人の感性は違っていて当たり前なのだが、なまえのはなるべく分かってあげたい。出来るだけ分かり合いたい。そう思っている。
しかし、髪が好きというのはどうなんだろう。性格でも顔でもなければ体でもない(なまえに限って体はないと思うが)。別に不安なわけじゃない。きっとちゃんと俺のことを思ってくれている‥はずだ。なあ、そうだろ?そうあって欲しい。

「‥髪だけ?」

「髪も、だよ」

「も、って?」

好きだよ、銀ちゃん。手を止め首の後ろへ回しぎゅうと抱き締められる。落ち着く。安心する。俺も壊れない程度にきつく強く抱きしめた。途端に耳元で聞こえるなまえ特有の笑い声。香るヘアコロン。さらさらの髪。なまえのもつ全てが好きだということをなまえは知っているのだろうか。


髪も好き


お前もそうだといい



090517
一壱子




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