Tricksters
92
このモヤモヤは、以前感じたことがあるような、ないような。クレーンゲームで、あと少しで目当ての品が手に入るという時と似た、もどかしい思いだ。いっそのこと、胸の奥に手を突っ込んで靄(もや)を取り出してしまいたかった。
その靄の正体に、本当は気付いている。ただ、言うのが躊躇われるだけだ。以前のように、誰かとの関係を崩したくはないから。
「……ううん、何でもない。ただ、男の人って分かりやすいなぁと思って。」
「何それ……結局俺のこと、そういう目で見てんじゃん。」
苦笑した和洋は、ジーンズの両ポケットにそれぞれ手をかける。私服に着替えた彼へ、寧は改めて目を向けてみた。
色落ちしたダメージジーンズに、履き慣らした白いスニーカー。黒いポロシャツの胸元では、小さなサーフボードが付いた銀のネックレスが光っている。
「……で、話って何?」
「え、何のこと?」
「え?寧ちゃんが言ったんじゃん!取材終わった後でって。」
“忘れたの?”と言いたげに、からかうような視線で笑う和洋。何と記憶力がよろしいことか。忘れてくれていたら良かったのに……と寧が内心呟いたのは、和洋が知る所ではなかった。
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