Tricksters
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「希楽、お前も着替えてこいってさ。」



 エンジェル・スマイルを浮かべた彼は、黒の縦縞が入った浅黄色の浴衣を妖艶に着こなしている。一瞬どよめいたスタジオ内。彼を担当したスタイリストがニヤリとほくそ笑んだ。



「どーお?完璧でしょ!髪も結ってみたんだけど、その方がピアスも見えて良いわよね?」



 何より、とても色っぽい。ルーズに束ねた髪の合間から見え隠れするうなじやくっきりと浮き出た鎖骨には、男女関係なくゴクリと唾を飲んでしまいそうだ。寧がそう思った時、和洋の視線が不意にこちらを向く。



「あ、おはよう!相変わらず早いねー?」

「……あ、うん!今日はスタジオ撮影だっていうから早めにと思って!!」



 自分に向けられた笑顔に心臓が跳ね上がったのをごまかそうとして、早口になる。これでは益々動揺がバレてしまうではないか。寧は必死に平生を装う。



「に、似合ってるわね、浴衣!」

「ほんと!?良かった、今日の撮影担当が寧ちゃんじゃなくて。ブレて絶対かっこよく写んないもん!」



 口角をニヤリと上げて、小声で和洋。まるで自分の気持ちを和ませようとするような一言に、寧は一層心臓を高鳴らせた。

 ――この人は、こんなにかっこよかっただろうか。目の前の男に焦点を合わせるのが、無性に恥ずかしくなった。



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あきゅろす。
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