Tricksters
79
「この曲、やっぱ良いな……」



 寧が心を惹かれたのは15曲目。この前シングルカットのために収録された、日本をイメージしたものだ。ライブが益々楽しみになる。眠りに就いた彼女の夢の中では、曲中で描かれている桜が舞っていた。



「――寧、久し振りだな。あれから何してた?」



 取材で使うスタジオへ相方より一足先に到着した希楽が、微笑を浮かべて寧に尋ねる。寧は某グラビアアイドルと政治家のゴシップについての取材、希楽と和洋はツアー稽古にアルバムのPRと、会わない日々が続いていたのだ。



「あ、うん。ちょっと“あっち”の方の仕事がね……」

「何だ、やめたんじゃないのか?」

「簡単にやめられる訳ないでしょう!?やめられるもんならとっくにやめてるわ……」



 自分はまだまだ下っ端で、独立出来る程の技量は持ち合わせていない。だからそれまでは、会社で色々と勉強させてもらうのだ。苦い笑顔でそう言う寧に、希楽はただ「……そうか」と返した。

 以前のようにグチグチとは言ってこない。彼に対しても進歩があったと内心喜んだ、その時。カメラマンやスタイリストと共に現れた、さらりと揺れる金髪。その人に、寧の思考は全て奪われてしまった。


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