Tricksters
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 閉鎖的な空間から抜け出した希楽と和洋は、廊下の途中にある長椅子へ腰を下ろす。スタッフに渡されたミネラルウォーターで喉を潤し、二人は暫しの沈黙を作った。やがて、黒髪に赤メッシュの男が口を開く。



「……お前、やけに優しいじゃん。」

「何が?」

「とぼけんな。寧にだよ。情でも移ったのか?」



 訝しげな顔で尋ねる希楽をチラリと見たが、和洋はそれ以上、グレーの瞳を希楽と合わせようとしない。図星なのか心外なのか。もしくはその他の答えなのだろうか。



「あいつは俺らの玩具だろ。そういう感情持つと後々面倒なんじゃねぇの?」

「……そういう訳じゃないよ。ただ、からかってるだけ。反応が面白いからね。」

「へぇー……そうは見えなかったけど?」

「それこそお前の勘違いだよ。ほら、戻るぞ。カップリング録ったらツアー稽古もあるんだし。」



 小さく笑んだ和洋が、希楽の右腕を拳で軽く突いた。「おー」と返した希楽は、和洋に続いてレコーディングスタジオへ戻っていく。空(から)になったボトルが、希楽の手を離れて彼の背後に投げられた。半透明のそれは綺麗な弧を描き、ゴミ箱へとダイブした。


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