Tricksters
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「なーに難しい顔してんの?新人スタッフさんが、具合でも悪いんじゃないかって心配してたよ。」

「あ、ヤス君……ごめんなさい、文章考える時はいつもこうなの。」

「そうなんだ?てっきり夏風邪かと思って……ただの癖かぁ!」



 安心したように言って寧の頭をクシャリと撫でた和洋は、「焦んなくて良いんだよ」と呟き、ニコリ。ドア付近で待っていた希楽の元へ行き、談笑しながら部屋を後にする。スタッフ達とプロデューサーがザワザワと次の打ち合わせをしている中、寧は一人、時が止まった静寂に居るような気分になっていた。



「この間から優しい、よね……?」



 希楽の方は相変わらずまだ嫌味なことを言ってくるのだが、彼の相方は違う。初めの頃に向けられていた敵視するような瞳は、もうすっかり消え失せているのだ。

 和洋は、元からよく笑う人だったのだろう。自分は嫌われて当然のことをやっていたのだから、あんな恐ろしい目を向けられても仕方なかったのだ。今、彼の態度が柔らかくなっているのは、きっと自分の仕事に対する熱意が伝わったからに違いない。そう解釈して、寧は小さくガッツポーズをした。


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