Tricksters
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「……あの、これからまた稽古なのに大丈夫なの?」



 抵抗をささやかに混ぜてみたが、「俺ら、まだ若いから」とバッサリ斬られてしまった。無駄な抵抗はよせ、ということか。呑気に歯磨きを終えて、二人は食後のキシリトールガムを噛んだ寧の元に近付く。ビクリと肩を震わせた体は、意外にも優しく床に倒された。

 目をぱちくりさせている寧を見下ろしながら、二つの顔が小さく笑う。すると、胸の中で渦巻いていた灰色のモヤモヤが霞んでいく。あぁ……この感情は昔体験したことがある。思い出して、寧は眠るように瞑目した。

 それは、元彼・秋夜と付き合っていた頃。二人は同じ大学の1年生と3年生で、学科はマスコミ学科・経済学科と違ったものの、同じテニスサークルに入っていたのをきっかけに仲良くなったのだった。

 お互いがお互いに好意を抱いてはいたが、端から見れば秋夜の一方的な片思いと言えるほどの猛烈なアピールだった。サークルの飲み会ではこっそりと寧を外へ連れ出して、自分の愛車内で口説くという計画的なシチュエーション。1年の不安定期の末に結局付き合うことになったのは、今から五年前の話だ。


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