Tricksters
50
ある日の午後2時過ぎ。ベリーズ社内のレッスンホールには、曲に合わせてダンスを踊るトリスタの二人と、それを見守る振り付け師やスタッフ達、それから一心不乱にメモを取っている寧が居た。
初めてダンスをこんなに間近で見た寧は、二人の上手さに驚きつつも、その独自の鋭い視点から記事の元となるメモを作っていた。
「星彩社の伊藤さん……で良かったですか?」
寧がハッと気付くと、隣には30代前半くらいの男性がニコニコと笑っていた。寧は慌てて「は、はいっ!」と返す。
「僕はTrickstarsのマネージャーの工藤です。いつもヤスと希楽がお世話になってます。」
「い、いえっ!こちらがいつも楽しくインタビューさせてもらってるんですよ!トリスタの記事、お陰様でいつも好評を頂いてまして……」
「伊藤さん達のお陰ですよ。昔はライブ前だとガチガチに緊張してたんですが……あいつらも大きくなったもんです。」
「工藤さん、何だか親みたいですよ?マネージャーの仕事って補佐的な役割じゃなかったですっけ?」
「ええ、そうです。僕の場合、ちょっと親の感情が出たんですかねぇ……」
クスクス笑い合い、中央で舞い踊る二人に目をやる。デビュー時に比べると貫禄が出てきた、と懐かしく語る工藤を横目に、寧は少しだけ複雑な気分だった。
工藤さんは二人の本性を知らないんだな……と感じ、哀れというか、子供の素行の悪さに気付かない父親を見ている思いがした。
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