Tricksters
12
「あの二人……なかなか手強いわね。恋愛に繋がる話をしても、尻尾を見せないわ……」



 巧みな話術を使っても、難なく交わされてしまう。彼らは演技や舞台を経験したことがあるので、もしかしたら寧の魂胆に薄々感付いているのかもしれなかった。



「はぁ……あの二人からネタなんて取れるのかな……」



 溜め息をついた寧は手を洗うと、とぼとぼとマネージャーが居るという部屋に足を進めようとした。すると、途端に鞄の中の携帯が震えた。



「はい!あ、沙伊花先輩?」

「あ、沙伊花先輩?じゃないわよ!
……どう?ネタは取れそう?」



 沙伊花はワクワクした口調で言うが、寧にはそれが重圧にしか感じられなかった。



「が、頑張ります……手強いけど、粘れば向こうもポロッと喋るかもしれないし!」

「そうよ!粘りが大事なの!!じゃあ、マネージャーやベリーズの人達に挨拶したらすぐ帰ってきてね。早速“トリスタ”の記事の構成を考えてもらわなきゃ!!」



 トリスタというのは、Trickstersの愛称である。ファンの間ではそう呼ばれているらしい。



「先輩……ファンの女の子じゃないんだから……」

「何よ、良いじゃない!私、若い男の子好きだしー!じゃ、ケーキ用意してるから早く帰ってきなさいね!!」



 沙伊花は早口でそう言うと、ブチッと電話を切ってしまった。寧は大きな溜め息をつく。沙伊花の言った“ケーキ”という言葉が、ごく僅かの励ましにはなった気がするが。

 ――取材は楽しかった。それはとても満足だった。しかし、ネタを掴まなければならないとなると話は別だ。一気に気分が下降していく。



「はぁ……何でこんなことになっちゃったかなぁ?私はネタ掴みたくてこんな仕事してるんじゃないのに……」



 寧が溜め息をついて、思わず壁に手をついて寄りかかった――その時だった。


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