Tricksters
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「――希楽君、次はもう少し目線を上でね。あ、そうそう、そんな感じ。じゃあ次は……」

「おい、まだやんのかよ。」

「だって、フォトブック出したいって言ったのは希楽君じゃない。折角、星彩社の人達も出版を引き受けてくれたのに。」

「つーか、仕事早すぎ。ほんの冗談のつもりだったのに……しかも、いつの間にか俺も本気になっちまったじゃねぇかよ。」



 クスクスと笑い合う二人。今日の撮影はマイホームで行なっており、ラフな私服を着た希楽を、寧が撮影している。

 寧は昨年、星彩社を寿退社。専業主婦になるつもりで居たのだが、これまでキャリアウーマンだった彼女には、イマイチ物足りない日々が続いた。そこで、フリーライター兼カメラマンとして働き始めたのである。

 転職した彼女だが、相変わらず以前の職場の人達とは関わっている。まるでこれまでの延長線上にあったようだと、内心思った。もしかしたら今の結婚生活も、自然な流れから迎えた未来だったのかもしれないが。



「よし、今日の撮影は終わり!明日は町に出てみましょうか。きっと自然な写真が撮れるから、ファンの人達も喜ぶわ。」

「あれ、もう終わりかよ。てっきりヌードとか撮んのかと思った。」

「……撮りたいの?ていうか、雑誌の取材で撮ったことあるんじゃない?」

「冗談だっつーの。ちなみに、セミヌードまでしかやったことねぇな。」



 おかしそうに笑う希楽。溜め息をついて苦笑した寧。すると、彼女の携帯に一通のメールが入った。差出人には、“えれなちゃん”とある。



「もしかして、またヤスんとこの?」

「うん、えれなちゃん。喧嘩しちゃったらしいから、明日気晴らしにショッピングでも行くついでにお話聞いてあげようかしら。」

「あいつらはまったく……飽きねぇよな、ほんと。これで何十回目だよ?」

「さぁ……でも、喧嘩しても絶対仲直りできるのが、あの二人なんじゃない?」

「あぁ、そうかもな。」



 いつも何かと慌しいらしい和洋達とは違って、常に落ち着いた様子の希楽と寧のカップル。まるで熟年夫婦のようだが、本人達は至って普通だと思っているのだろう。自分達だけの時間が流れていることには、きっと気付かないまま。

 ――つまらないことだけの毎日の中にも、よく見れば面白いことが転がっているものだ。この世界ではきっと、誰かが誰かのトリックスター。芸能人でも一般人でも、勿論、そこのあなたも。



fin.
→後書き

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