Tricksters
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 騒ぎに気付いたベリーズの社員達が、希楽と和洋を見つけて問い詰める。彼らは寧も居るのを見て、何とも訝しげな顔をした。困惑の表情を浮かべたまま、何も言えない和洋。だが、対する希楽は、やけに据わった目で寧を見つめていた。

 声をかけようとした寧の手を、そっと掴む希楽。そのまま彼は、視線を野次馬達に向けた。



「……お騒がせしてすみません。突然俺達が現れて驚かれた方ばかりだと思いますが、今日の所は帰ってくれませんか?」



 ファンの中から、「何あの女……」という声がチラホラ聞こえる。ビクリ、肩を震わせる寧。スタッフ達からも相変わらずの視線が送られてくるので、必死に弁解の言葉を探す和洋。そんな中、見兼ねた希楽が再び口を開いた。



「……この人は、俺の大事な人だから。できれば、そんなこと言わないで欲しいかな。」

「き、希楽君!」

「お前は黙ってろ。スタッフさん達、そういう訳です。ちょっと色々あって、三人で揉めてました。ご心配かけてすみません。あとで話を。」



 冷静な希楽の対応に頷いたスタッフ達が、野次馬達を上手く追い返す。静かになった路上。一行は、とりあえず事務所に入って話し合うことになった。

 ――二人は、これまでのことを簡単に話した。相手のことを考えてえれなの名前は出さず、あくまで三人と某アイドルの女性との問題ということで進めていく。事態を把握したスタッフ達は、彼らに社長室へ行くようにと伝えた。



「……で、恋愛沙汰になったって訳か。まぁ、君達仲良かったもんね。でも、騒ぎを起こしたのはちょっと良くないなぁ。」



 社長は難しい顔をして、三人を見つめている。頭を下げて意気消沈している寧。希楽と和洋は、顔を見合わせる。すると、しばらく黙っていた和洋が、ようやく重い口を開いたのだった。



「……希楽。俺、寧ちゃんのこと諦めるよ。さっきの見てて思ったんだ。俺は周りのことばっか気にしてたけど、お前は寧ちゃんのことを一番に考えてたよな。寧ちゃんには、そういう奴の方がお似合いだと思う。」

「ヤス……」

「寧ちゃん、今までごめんね。でも、一緒に過ごせた時間は凄く幸せだった。ほんとに、ありがとね。」



 小さく笑った和洋。寧は頷いた時、思わず涙をこぼしそうになった。“自分もとても幸せだった”という言葉も、飲み込まざるを得ない。



「希楽、寧ちゃんのこと頼んだからな。あと……こんなことがあったけど、俺のこと嫌いにならないで欲しい。俺、もっと希楽と一緒に仕事したいよ……」



 目を潤ませて訴える和洋。それを見た希楽は、社長に目をやる。“どうなんです?社長。”ハスキーボイスの男は、そう尋ねているかのようだった。



「……解散するには、まだ早いユニットだよなぁ。お前達には、10周年も20周年もアイドルやっててもらいたいんだけど。」

「じゃ、じゃあ……!」

「当たり前だろ、ヤス。俺だって、そんな簡単にお前のこと嫌いになれねぇよ。多分、寧だってそうだと思うぜ。な?」



 頷いた寧。そんな彼女を見て、和洋の瞳は潤みを増す。社長が「ヤスは泣き虫だなぁ、相変わらず」と口にすると、希楽が相方のライトゴールドの髪をわしゃわしゃと撫でた。



「寧、そういうことだから。お前にも時間が必要だと思うから、さっきのことはゆっくり考えてくれて良いからな。
ただ、これだけは言っとく。俺の気持ちは、ずっと変わらない。お前のこと、ずっと好きでいるから。」



 彼からきちんと告白されたのは、これが初めてだ。思い返せば、今まで何度か好意を感じるような言動があった。それに気が付かなかった程、自分は大切にされていたのか。そう思うと、胸の奥からじんわりと温かくなるような心地がした。



「……うん、ありがとう。連絡は、トリスタとの最後の仕事が雑誌に掲載される頃には必ずするわ。」



 きっと、もう答えは決まっていたのに。あえて駆け引きを選んだ自分は、知らない内にこの芸能人達に感化されていたようだ。三人にお辞儀をしてベリーズを後にしながら、そう思った。


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