Tricksters
156
「あの……実は、ね。この連載、今回が最終回なのよ。」
「……えっ?」
「おいおい、突然何言い出すんだよ?」
和洋も希楽も、やはり驚いている。自分も相当びっくりしたし寂しかったのだから、ある意味当然なのかもしれない。何よりも、二人が自分と同じような気持ちであることがとても嬉しかった。
ICレコーダーを止めて、二人を見やる。ここから先の会話は、プライベートなことも含まれるからだ。
「……二人を取材できて、本当に楽しかった。最初はどうなることかと思ったけど、今では毎月一度の楽しみがなくなることが寂しいなって思うくらいなの。」
これから自分は、もっと広い世界に飛び出していく。まだまだ一緒に仕事をしていたかったが、祝福してもらえたら嬉しい。そして、いつかまた二人を取材する日が来たら、共に喜び合おう。寧はそう告げた。
ゆっくりと頷いた希楽に対して、解せないといった表情の和洋。疑問を示すようにその名前を口にした時、ライトゴールドの髪の男は、寧をキッと睨み付けた。
「……そんなの、何か逃げてるみたいじゃん。」
「え?」
「逃げんの?俺からも、希楽からも。」
「おい、ヤス!」
「だって、そうじゃん。“あのこと”、うやむやにしたままだったし……俺、別れるなんて認めてないから。」
“往生際が悪いな”とばかりに、希楽が相方を見て溜め息をつく。同時に、寧は困惑した。浮気をされたのはこっちだというのに……こんな時くらい、すんなり受け入れてくれても良いではないか。そう思ったのが伝わったのか、和洋が急に眉を下げた。
「……浮気したのは、ごめん。でも俺、寧ちゃんのことが本当に大事なんだ。」
「それは、分かるけど……今のまま付き合っていくことは、ちょっと難しいわ。少し、離れたいの。」
渋い顔をした和洋。寧はどうしたものかと、希楽に視線を移す。アンティークゴールドの髪をした彼は、掠れた声で小さく口にした。
「……ヤス、ここは折れろ。お前が招いたことなんだから、寧の言い分を通すべきだ。」
「でもっ……」
「いい加減にしろよ。大事な奴困らせるくらいなら離れるって選択肢はねぇわけ?」
グッ、と言葉に詰まる和洋。正論を突き付けられて、何も言い返せないのだろうか。悔しげに眉間に皺を寄せて、手を握り締めている。
――簡単に引いてくれないとは思っていた。だが、まさかここまでとは……表現し難い怒りが、寧の中で沸々と湧き上がってくるのだった。
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