Tricksters
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 寧から連絡を受けた工藤は、少し残念そうな声音で「……そうですか」と口にした。「また伊藤さんに取材して頂けるのを楽しみにしてます」と言ってくれたところから、彼自身、寧を気に入ってくれていたらしい。何度もお礼を言いながら、寧は自然と頭を下げていたのだった。“二人にはまだ黙っていてくれ”、と付け加えて。

 そして、いよいよ最後の取材の日。希楽と和洋の両方と会うのが気まずいのだが、これまでの取材の楽しかった気持ちの方が勝る。“二人にお礼を言いたい”という思いのままに、寧はベリーズ本社へと足を進めた。先に、社長に挨拶をするためだった。

 ベリーズの社長はとても気さくで、「あの連載が見られなくなるなんて残念だよ。記事を集めて、写真集みたいにして売りたいくらいだ」とこぼし、寧の肩をポンと叩いてくれた。50代の貫禄ある男性にまでそう言われると、才能があるのだと自惚れたくなる。だが、寧は内心首を振って、「ありがとうございます。その際は、星彩社から出版を」と笑顔を返した。



「――じゃあ、この一年を振り返っての感想を聞こうかな。まずは希楽君から。」



 連載のラストインタビューは、ベリーズエンターテイメントの第2談話室。奇しくも、初取材と同じ場所だった。

 希楽はライブ取材と浴衣での撮影が印象に残っていると話し、和洋は初インタビューとライブ取材が思い出深かったと口にした。その他にも沢山のこぼれ話が飛び出して、時間はあっという間に過ぎていった。



「……この一年間、長いようで短かったよな。俺ら、結構仲良くなれたと思わねぇ?」

「そうだね……寧ちゃんと仕事するようになって、もう一年経ってたんだ。」



 感慨深げな二人。そんな彼らにこれから“あの話”をしなければならないのだと思うと、胸が痛む。

 ――口に出さなければ、何も始まらない。二人との関係も、今日こそはっきりさせたいのだから。


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