Tricksters
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 あの日、そしてそれ以降も、結局希楽が迫ってくることはなかった。まるで期待していたような思考に何だか妙な気分になった寧だったが、仕事に没頭したら気持ちを切り替えられる。我ながら単純だな、と内心嗤(わら)った。

 パソコンのキーボードを叩いて原稿をまとめ、できたものをプリントアウト。これを編集長のボックスに突っ込めば、ひとまずこの仕事は終わりとなる。トリスタに、バレンタインの思い出について尋ねたインタビューの記事だった。



「……二人と仕事するようになって、もうすぐ一年か……」



 沁々と、呟く。初めての連載を持って、しかも相手は超売れっ子のアイドル歌手達。よくもまぁ、このプレッシャーに耐えてきたものだと思う。

 彼らに会って、今まで以上に芸能界の汚い部分も知った。だが、その世界で彼らが懸命に戦い、生き抜こうとしているということも分かった。色んな意味で、この大仕事は自分に大きな影響を与えてくれたのだと感じる。



「……あ。もう出なきゃいけない時間だわ。」



 朝早く起きて仕事を片付けていたのだが、気付けば3時間が経っていた。軽い朝食を済ませると、寧は着替えて鞄を手に、家を後にした。


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あきゅろす。
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