Tricksters
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「昔から、そうなんだよなぁ……俺が靴紐結んでる間に、ヤスはとっくに準備を終えて走り出してるっていうか。もしかしたら、社長は俺らのそういう所を見てて、ユニット組ませたのかもしれないな。」



 和洋と同じグループに所属しているのは、嬉しい。同じ人を好きになったのも、ある意味喜ぶべきことだった。自分達の人間性は、まだ廃れてはいないと分かったからだ。

 でも……寧を傷付けて、泣かせて、何も知らずに平気な顔をしている相方は、どうしても許せなかった。だから、のんびり靴紐を整えている暇はなかったのだ。



「……寧、辛かったよな?好きな奴に、裏切られたみたいになって。」



 希楽の優しい声が響く。言われてみて、初めて考えてみる。果たして、自分は辛かったのだろうか……と。

 和洋とえれなが抱き合っているのを見た時、確かに少しだけ、胸がチクリとした。だが、今となってはもう、何処かスッキリしているような気がするのだ。それはきっと、自分の中で和洋とのことが過去に変わったから。そして、隣に居る人が、気晴らしをさせてくれたからだろう。



「ええ……でも、もう大丈夫。希楽君のお陰で、何だか胸がスッとしてるの。ありがとう。」

「別に良いよ。つーか、“もう当分恋愛は良い”って思ってないか?」

「……凄いわね、何で分かったの?」

「普通そうなるだろ、あんだけ嫌な思いすれば。」



 苦笑した希楽は、「ま、近くまで送ってやるから。案内よろしく」と口にして、車のエンジンをかける。静かに頷いて、寧はそのまま、思考を巡らせる。運転席の男もそれを分かっているのか、言葉をかけてくることはなかった。


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あきゅろす。
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