Tricksters
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 ――レジの所できっちり三人分の代金を店員に渡して、「ごちそうさま」と何食わぬ顔で店を後にする、ハスキーボイスの男。彼に手首を引っ張られたまま、寧はその人の車まで連れていかれた。



「……ごめんな、急に。驚いただろ?」

「え、ええ……」

「でも、ずっとこうするって決めてたんだ。悪かった。」



 二人のことに介入することは、多分ないと思っていた。だから、行動を起こしている自分に、実は内心驚いている。希楽はそう口にした。

 アイドルになってから、人間の汚い部分を沢山見てきた。一般人にとっても、オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの新種の犯罪が生まれ、信じられるものが少ない世の中になってきている。自分達が生きている世界は忙しく華やかではあるけれど、実際は裏で、複雑な事情や感情が交差しているのだ。

 芸能人としての個人を確立しつつも、何処となく疲れた毎日を送っていた、そんな時。出会ったのが、寧だったのだという。



「あの時は、よくどうでもいいことでムシャクシャしてたなぁ……ウゼェ女は寄ってくるし、業界歴が近い奴らには陰口叩かれるし。
けど、何があってもへこたれないお前を見てたら、“頑張らなきゃ”って思えた。だから、側に居たいって気持ちもあったけど……反対に、ある程度の距離を置いてなきゃいけないって気持ちもあったんだよな。
俺、お前に結構酷いことしただろ。だから、流石に虫が良すぎるよな、って。」



 自分より先に寧へ思いを告げていた和洋のことは、苛立ちを覚えると同時に羨ましいと感じた。相方は、こちらがためらってしまうようなことをいとも簡単にやってのけるような、思いきりの良さを持っている。そこが尊敬すべき点だというのは、昔から変わっていないのだと、希楽は言った。


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