Tricksters
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 和洋のライトゴールドの髪は、いつも心を明るく照らしてくれていた筈なのに。今日に限ってその色がくすんで見えた理由は、寧自身よく分かっていた。

 ――自分にはもう、彼を愛することはできない。一途な女の子も傷付けてしまったし、自己嫌悪も大きい。しばらくは一人で居よう。そう思った。



「……寧、どうしたの?何か最近、浮かない顔してるみたいだけど。」



 オフィスの休憩所で一息ついている時、不意に沙伊花が声をかけてきた。寧は首を横に振ろうとしたのだが、先輩が次の言葉を紡ぐ方が早かった。



「例の彼と、何かあったのね?」



 先輩に話してみなさいよ。そう言われて、ジワリ、涙が滲んだ。

 ――和洋と元カノがヨリを戻しそうで、自分にはそれを止める理由がない。裏切られたというよりは、もう好きでは居られないのだという思いの方が強いのだと打ち明ける。沙伊花は複雑な表情で、ペットボトルの水を一口飲んだ。



「そうだったの……なら、私もあんたの意見に賛成だわ。一人でゆっくりする時間が欲しいんでしょう?人気アイドルと付き合うの、大変だったわね。」



 そっと頭を撫でられて、彼女が姉であるかのような感覚を覚える。この人は仕事でも人生でも、自分の大切な先輩だ。そう思うと、“ついてきて良かった”と感じるのだった。

 ひっそりと泣いた後は、気持ちを切り替えて仕事に臨んだ。近々、和洋に別れを告げよう。直接会って伝えたいと思った寧は、“話したいことがあるから、都合の付く時に会いたい”とメールした。返信はいつ返ってくるか分からないが、もしかしたら、取材の時に直接返事を聞けるかもしれない。本日分の仕事を終えると、寧は早めに帰宅した。

 ――今日は、ゆっくり休もう。ひょっとしたらこれが夢なのではという期待は、もう捨てて。


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あきゅろす。
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