Tricksters
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 気付けば、自宅のベッドで朝を迎えていた。記憶にないが、きちんと車を運転して帰ってきたのだろう。ベリーズエンターテイメントの人達に何も伝えずに帰宅してしまったため、寧は改めて挨拶にいくことにした。

 ――トリスタの二人は仕事中とのことで、マネージャーの工藤と話すことになった。工藤は嫌な顔一つせず、反対に寧を気遣ってくれた程だった。



「あの二人も心配してましたよ。伊藤さん、もしかして具合が悪いんじゃないかって。」

「そうだったんですか……すみません、良い大人が大勢の方に心配をかけてしまって。」

「気にしないで下さい!いつもお世話になってるんだし、我々が心配して当然なんですから。希楽とヤスのこと、これからもよろしくお願いしますよ。また素敵な記事、読ませて下さいね。」



 直接的にも間接的にも、随分と励まされてしまった。何処かで“情けない”と思いながらも、勇気付けられたのは確かだ。だから、素直に「ありがとうございます」と返す。満足げに頷いてくれた工藤を見て、良かったと安堵した。



「そろそろ二人の仕事が終わる頃だから、もし良ければ顔を見せてやってくれませんか?」

「はい、勿論です!本当に、ありがとうございました……!」



 仕事が行われているスタジオの場所を聞き、そこへ向かう。途中で顔見知りのスタッフ達と言葉を交わしながら、現場前に到着。スタジオには誰もおらず、和洋達とは行き違いになったように思われた。

 だが、中から女性の声がする。従業員の人かもしれないと思い、話を聞こうとした寧。その耳に飛び込んできた台詞は、やけにクリアだった。



「和洋……あたし、やっぱりあんたじゃなきゃダメなの……」


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あきゅろす。
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