Tricksters
129
 ――どれだけの時間が過ぎたのだろう。心地良いぬくもりで目を覚ました寧は、自分が誰かの腕の中に居るということに気付いた。

 ゆっくりと、瞼を持ち上げる。視界に入る厚い胸板。徐々に上へ辿っていくと、女の子のように柔らかそうなピンク色の唇と、きめ細かい肌。幸福に眠る天使のような男が、自分の体を包んだまま、微かな寝息を立てていた。

 思わず、笑みがこぼれる。



「……ヤス君……」



 名前を呼べば、愛しさが胸に沁み渡る。他の誰でもない。和洋に出会えて、本当に良かったと思えた。

 サラサラとした手触りの金色の髪に、そっと触れる。こんなにも近くに、手を伸ばせば届く距離に、彼が居る。信じられないが、これが現実。寧は漸く、それを受け入れられた。

 ふと、和洋が身じろぎする。思わず、体が硬直した。



「……ん……」



 掠れた甘い声に驚かされたのも束の間、和洋の胸に抱き寄せられる。鼻腔いっぱいに、彼の香り。満たされて、とても安心した。

 “幸せ”とは、こういうものだ。寧は心で、そう噛み締めていた。


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あきゅろす。
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