Tricksters
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紳士的な仕草に、胸が高鳴る。寧が助手席に乗ってシートベルトを締めたのを確認すると、和洋はゆっくりと車を発進させた。
他愛のない話をしながら、暫しのドライブは続く。運転中の横顔を見つめる寧は、退屈することがなかった。和洋の方も、もしかしたら、初めて寧を自分の車に乗せることが出来た喜びを感じているのかもしれない。
――停車したのは、家賃が高そうな住宅街。他に有名人が住んでいそうになく、位置的にもある意味隠れ家的な場所だ。あくまで記者の勘だが。和洋の華麗な駐車技術に見とれている内に、車庫へ入る。車を降りた寧は、和洋に手を引かれながら足早にエントランスへ向かった。和洋も寧も、無意識の内に人目を避けているらしい。
「……綺麗な所ね。」
「うん。まだ三年くらいしか経ってないんだって。」
エレベーターで7階へ上がる途中、そんな会話をする二人。目的地へはすぐに到着し、並んで廊下を歩く。その一番端、710号室が和洋の部屋だった。
「はい、どうぞ。」
ガチャリとロックを外し、ドアを開いて入室を促す和洋。寧は「お、お邪魔します……」と言いながら、そろそろと部屋に上がった。
心臓が、速い。言うまでもなく緊張していた。
和洋の部屋は、思ったより片付いていた。20代男性の一人暮らしということで、最悪の場合“腐海”を覚悟していたのだが、そんな心配は無用だったようだ。出しっぱなしの食器類もないし、服はきちんとハンガーにかかっているし、棚の書籍も綺麗に並んでいた。
「ヤス君って綺麗好きなんだ?」
「まぁね。びっくりした?」
「うん、ちょっとだけね。もっと散らかってるかと思ってたから、感心しちゃった。私も見習わなきゃ。」
微笑した寧の片手が、不意に掴まれる。彼女はそのまま、大きな手に誘導された。理由は十分に分かっている。先程の中途半端な遊戯の続きを楽しむため、だ。
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