Tricksters
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 何かを堪えるような表情の和洋を見て、寧の鼓動が速さを増す。自分の中をかき回してくる長い指に、見つめてくる熱っぽい視線に操られるように、喉から声が洩れた。ここが何処であるかということは、二人の頭から消えつつある。自分達の居るベリーズエンターテイメント内、その中にある会議室の中の一室が、廊下へ淫らな音色を微かに響かせているということが。



「……や、ん、あッ……!」

「寧ちゃん、あんま声出すと外に聞こえるよ?鍵かけてないし……ま、スリルあって良いけど。」



 ニヤリ、からかうような目付きで艶笑した和洋。寧が口元を手で覆うより早く彼女の手首を掴み、それをさせないようにする。この台詞を口にしたのも、寧の行動を予測してのことだろう。彼女の羞恥を煽り、もっともっと可愛がってやるために。



「何で、手……」

「何でって、声が聞きたいからに決まってるじゃん。凄く簡単な理由でしょ?」



 だから、イイ声で啼いてね。そう言った和洋から、再び癖になるような刺激が送られ始める。彼の指の動きに合わせ、寧は自分の意志とは関係なしに夢中で喘いだ。

 甘い響きを紡ぐ寧の唇を押し付けるように、和洋はその頭ごと自らの胸に抱いてやる。それは、“もっと声出して良いよ”の意。寧には伝わったのか、彼女はくぐもった声を上げながら、和洋の服をギュッと握り締めた。

 例えばここが自分の部屋だったら、もっと寧を思いきり啼かせてやれるのに。そんな思いが和洋の頭をよぎった。するとその時、微かだが、ドアの向こうからカタリという音。快感に浸りつつある寧への愛撫を一旦やめ、和洋はドアを突き抜けるような鋭い視線をそちらにやった。

 ――希楽は先程帰ったし、マネージャーだったら正直に話せば寧のことを分かってくれる筈だ。問題は、“それ以外の人物”だった場合である。



「……ちょっと待ってて?」



 優しく声をかけて寧を膝から下ろし、和洋はドアの外の様子を窺いに行く。当たり前だが、そこに居たであろう人は既に立ち去った後だった。和洋は、とても小さな音で舌打ちをした。

 ――もしも、大切な彼女に何かあったら。そう思うと、こんな場所で寧に手を出すなどという、軽率だった自分に対する怒りが込み上げてきたのだ。しかし、それを打ち消すように笑みを浮かべ、彼は寧に歩み寄った。


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あきゅろす。
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