Tricksters
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「……俺ね。今回のツアー中にずっと歌ってきた自分のソロ曲、一人の女の子のために書いたんだよね。その子がツアー最終日に来てくれることになった時は、嬉しかったけど心臓が止まるかと思った。
なのに、その子はパフォーマンス見逃してるし?挙句、意味不明な女に喧嘩売られてるし?俺、今凄く複雑な気分なんだよね。」



 自分を見上げている灰色の瞳が、寂しげに揺れる。しゃがんだまま溜め息をついた和洋は、ポケットに手を突っ込んで携帯を取り出した。



「……俺のソロ曲、この中に入ってるんだよね。こいつ自分の曲入れてるー、とか言って笑わないでよ?声は入ってないんだからね。」



 小さく笑った彼が、携帯のボタンを押す。流れる音楽に乗せて、寧のためだけに開かれる小さなライブが始まった。

 ――出会いは突然だった。君を好きになることなんて絶対にないと思っていたし、そうなる自分を想像することすら嫌っていた。だけど、いつの間にか君のことばかり考えていて。寝ても覚めても、僕の頭には君が居るんだ。そう言ったら、君はどう思う?

 目を見ながら歌われるのは、何だかとても気恥ずかしい。歌う側も、多分緊張しているだろう。だが、彼はそう思わせないような、温かく柔らかい笑みを最後に浮かべたのだった。



「……俺、寧ちゃんのこと好きになってたみたい。」



 金髪の天使が、自分の一番欲しかった言葉を口にして微笑みかけている。これは、夢だろうか。夢なら覚めなくて構わないのに。



「ねぇ、寧ちゃんはどうなの?俺のこと、どう思ってる?」

「……その笑い方だと分かってるんでしょう?随分と楽しそうだけど。」

「だって、どうせなら本人の口から聞きたいじゃん?ほら、言ってよ。」



 体勢を変え、椅子に腰かける寧へ覆い被さるようにして問いかける和洋。いよいよ心臓がやかましくなってきた。だが、この思いを隠す必要も殺す必要も、もうないのだ。



「……好き、です。」

「ほんとに?」

「嘘言って何になるの?」

「まぁ、そうだよね。」



 クスリ、笑うと揺れる金色の髪。思わず手を伸ばしたくなる。それに気付いてか、和洋の手が寧の手首を掴み、自らの髪へ持っていった。

 二つの視線がゆっくりと交わる。温めてきた思いを確かめ合うように、唇と唇がふわり、重なった。


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あきゅろす。
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