Tricksters
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 静まり返った部屋に、一組の男女。男の方は美しい金髪でお洒落な私服姿、女の方は緩い茶色の巻き髪で、グレーのスーツに身を包んでいる。



「……ヤス君からどうぞ。」

「……いや、寧ちゃんからで良いよ。」

「いえいえ、ここはヤス君から……」



 妙な譲り合い精神を発揮する二人。室内には彼らの緊張感が溢れていて、時計の音がやけに鮮明に聞こえる程だ。どうぞどうぞとお互いに優先し合っていた二人だが、観念したかのように和洋が口を開いた。



「……寧ちゃん、さっきのライブ中に何かあった?俺のソロ見逃したでしょ。」

「あ、えっと……」



 あの子のことを話して良いのだろうか。僅かな迷いが生まれたが、それを払うかのように頭を振って口にする。



「気付いてたかもしれないけど……あの会場にね、但馬さんが居たのよ。私、凄く睨まれちゃって。原因は何となく分かってるから、良いんだけどね……納得してるもの。」

「何が“納得”だよ。俺は全然納得出来ない。何で寧ちゃんがあいつに睨まれなきゃいけないわけ?」



 表情と口調に憤りが感じられる、和洋の台詞。寧は思わず硬直した。彼が怒りを露にするのは、何故か自分に関わることばかりだ。



「……私、初めて但馬さんに会った時もヤス君達と親しげに話してたでしょう?多分彼女は、それが嫌だったのよ。
勘違いじゃなかったら、ライブ中にヤス君が私に視線をよこしてくれたと思うのね。それが彼女には我慢ならなかったんだと思うわ。」

「……何それ。あいつの勝手な我儘じゃん。」



 向かい合って椅子に座っている和洋が、顔をしかめてそう言った。彼はゆっくりと席を立ち、寧の前まで来てそっとしゃがみ込んだ。


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あきゅろす。
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