COLORFAST DAYS
優先順位が変わる朝
 クリスマス当日。父さんに「バイト頑張れよ。俺と涼は仕事が終わったら出かけてくるから」とノロケが入った嫌味な笑顔で言われ、思わず朝から舌打ちしそうになる。学校が終わったら、レオと一緒に『ライムライト』へ直行だし、学校でもレオに会えるじゃん。そう自分に言い聞かせて、黙々と朝食を口に運んだ。



「……ごちそうさま。」



 何か言いたげな父親を無視し、洗面所へ。歯磨きをして身なりを整えてから、鞄を片手に玄関へ向かう。



「朱希ー!紫温、もう行った?」

「いや、まだ玄関に居ると思うけど。」



 リビングから父と母のやり取りが聞こえ、少しだけ待ってみる。間もなくパタパタと足音が聞こえ、母さんが姿を見せた。



「……何か用?」

「あのね、もし良かったらで良いんだけど……」



 そう言って母親がポケットから取り出したのは、二枚の紙。目を凝らしてジッと見てみると、最近話題になっている映画のチケットだった。確か、明日から公開の筈だ。



「慶華に譲ってもらったんだけど、生憎朱希もあたしも仕事でね。気になる子が居るんなら、誘ってみたら?」



 母の好意は嬉しかった。でも、あの子は失恋したばかりだから、そんな気分にはならないんじゃないだろうか。だけど、万が一気晴らしになるんなら誘ってやった方が……色々考えていると、目の前の女性に小さく笑われた。



「時には感情を優先することも必要よ、紫温。その子と一緒に映画、観に行きたくないの?」



 ――その一言で、目が覚めた。自分はまだ、諦めていない。あの子の心にまだ瞬さんが居たとしても、振り向かせたいと思っている。だったら……



「……ありがと、母さん。ダメ元で誘ってみるよ。」

「うん。頑張ってね!行ってらっしゃい!!」



 夏の太陽みたいな笑顔に見送られて、俺は家を後にする。手の中のチケット二枚を、そっと鞄にしまい込んで。


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あきゅろす。
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