COLORFAST DAYS
早川家の食卓
 自分の部屋に入るとすぐ、ストーブのスイッチを押した。今年はとても寒くて、春生まれの俺には敵わない。毎日毎日死にそうな思いで過ごしている……というのは少し大袈裟かもしれないけど。

 ジワジワと暖かくなってきた室内で、ゆっくりと勉強机に向かう。と言っても、響に借りてきた小説を読むだけ。奴が好きな推理小説作家の新刊らしいそれは、華麗なトリックが素晴らしいと色んな所で絶賛されていた。



「紫温ー!ご飯出来たから降りてきなさい!」



 階下から母親の呼ぶ声がする。時計を見れば、知らず知らずの内に二時間も経っていた。やけに集中していた自分自身に驚きながらも、「はーい」と答え、読みかけの本にしおりを挟み、食卓へと向かった。

 温かさを感じる良い匂いがするなと思ったら、今日の晩御飯はクラムチャウダーだ。海藻サラダが小皿に乗っていて、健康に気を使う母さんらしいなと思った。



「おい、お前クリスマスもバイト入れたのか?」

「何、悪いの?」

「別にそういう訳じゃねぇけど。ただ、“今年は”一人かぁって思っただけだ。」



 ニヤリと笑う父親を軽く睨めば、大してそう思っていないだろうなという表情で「悪い悪い」と返される。そういえば、去年までは一人じゃなかったんだと思い出す。俺に“剣道と結婚してしまえ発言”をした彼女と、ここ三年間のクリスマスは一緒に過ごしていたからだ。



「あの子、結構良い子だったよな。涼も気に入ってたし。」



 少々残念そうに言った父さんだったが、「まぁ、紫温のお嫁さんになるにはちょっと“タフさ”が足りなかったってことなんじゃない?」と返す母さんの言葉に納得したらしく、首を縦に振った。


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あきゅろす。
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