PURPLE DAYS

side朱希



「さてと……あたしも出ようかな?」

「じゃあ、途中まで一緒に行こうぜ。」



 すかさず口にしたのは、いつも出勤時間がバラバラな俺達にとって、こういう日は貴重だから。ニコリと笑って「うん!」と返した涼に、自分も笑顔を向ける。こんな日常が当たり前になったなんて、まだ少しだけ信じられない。

 ――だって、幸せすぎるから。



「お前、今日何かあるの?いつもはもっとゆっくり出るじゃん。」

「うん、会社で新人歓迎会があるから、早めに仕事終わらせるんだって。だから早めに出勤するようにって言われたの。」

「ふーん……変な男にちょっかい出されんなよ?」

「大丈夫よ!ほら、ちゃんと指輪してるし。」



 涼はそう言って、俺がしているのと同じデザインの結婚指輪を見せる。あぁ、こいつ全然分かってないな。キツい言葉が喉から出かけて、慌てて飲み込む。



「……まぁ、とにかく気を付けろよ。何かあったらすぐに電話してこい。」

「うん!じゃあ出よっか?」



 涼はそう言って、玄関のドアを開ける。春の匂いが鼻腔をくすぐって、新社会人となった俺達を温かく見送ってくれた。

 口には出さないけど、やっぱり気がかりだ。人当たりも良くて可愛い涼のことだから、放っておく奴の方が少ないだろう。不安から解消されたくて一緒になった筈なのに、これじゃあ前と何も変わらない。

 ――いつの間に、こんなにハマったんだっけ。


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あきゅろす。
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