PURPLE DAYS
89
side朱希
──何度目かの浅い眠りから覚めて、布団から抜け出す。洗面所で顔を洗うと、服を選んで着替えてから、食卓に向かった。
「うわ、朱希が自分で起きてきた。今日雨になるんじゃないの?」
失礼な発言に、思わずムッとする。でもまぁ、涼の反応は当然というか、何というか。眠りが深いから、というのが、お決まりのフレーズではある。
「うるせーな……しょうがねーだろ、起きちゃったんだから。」
「はいはい。朱希、あんまり寝てないじゃない?大丈夫?」
「え、何で?」
「だって、朱希が早く起きてくるのって、眠れなかった時だから。」
“デート延期しようか?”の言葉には、即座に首を横に振る。あぁ、何でバレてるんだろ。そんな話、したこともないのに。
でも……そっか。それだけ、俺を見てくれてるってことか。
「……何か、あの時と同じかも。」
「え?」
首を傾げる涼に語った。今でもはっきりと覚えている、とても寒かった、1月のあの日のことを。
「涼のセンター試験の日。あの日は心配で眠れなかったけど、今日は何つーか……遠足の前日に興奮して眠れなかった子供の気分?」
「何それ。そんなに楽しみにしてたの?」
「……何だよ、お前は楽しみじゃなかったのかよ。」
「そんなこと言ってないよ。」
くだらない話なのに、柔らかく笑ってくれる。その表情があまりに優しくて、凄く安心した。
この笑顔があるから、きっと頑張れる。そう思った。
「朱希ってさ、たまに子供みたいなんだよね。可愛い。」
「うるせー。俺よりちょっと早く生まれたからって、良い気になってんじゃねーぞ。」
涼はたまに、凄く大人っぽく見える時がある。高校生の頃は、よくそう思っていた。今もそれは変わらないんだけど、俺にも落ち着きが出てきたからなのかな。大人っぽくとか年相応とか、そういうのはどうでもいいんじゃないかって考えるようになったかもしれない。
いつもの仕事着ではなく、今日はお互い、私服に身を包んで家を出た。初夏にピッタリの、ミントブルーのカーディガンと、白の膝丈ワンピースが隣で揺れる。華奢な右手を握ってやると、小さく笑みをこぼして「行こっか?」と言ってくれた。
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