PURPLE DAYS
72
side朱希



「……朱希、ありがとう……」



 小さい声だったけど、俺にはちゃんと聞こえた。消えてしまいそうな声も、抱きついてきた華奢な体も、ふわりと香る匂いも。涼の涙で服が濡れるけど、それすらも愛おしい。

 涼が弱いと思ってる訳じゃない。でも今日は、ちょっと目を話したら何処かへ行ってしまうんじゃないかと思うくらい、儚く感じた。

 頑張り屋な涼だから、もう少し肩の力を抜けば良いと思う。たまには“誰か”に寄りかかっても良いんだって、気付いて欲しい。



「……涼は偉いよな。」

「え、何が?」

「いや、何でも自分でやろうとすんの、癖だよなって思って。そういうとこ好きだけど、たまには俺に頼ってくれても良いんじゃねぇの?」



 ――泣くんなら、一人じゃなくて俺の前で泣いて欲しい。誰かの前で涙を流さない強さに惹かれたのは事実だし、いつでも前を向いている姿勢は自分と通じるものが合って好きだ。でも、涼の抱えている辛さを知らないままでいるのは、凄く嫌なんだよね。

 服の胸元には、涼の涙で染みが出来ている。泣き虫な彼女は泣いて強くなるから、側で見守ってやるのが、きっと俺の役目なんだろう。



「ごめん、服濡らしちゃった……」

「良いって。気にすんな。」



 髪を撫でてやると、小さく笑みが浮かぶ。多分、もう大丈夫だ。渇きかけた頬の雫を、袖で拭ってやる。明日からはまた、いつもの前向きな涼に戻る筈だ。


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